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続・『ひょこたんの冒険』

続・『ひょこたんの冒険』が完成しましたので置いておきます。夏休みくらいまで不定期更新となりますので、物好きな方は読んでみてください。 ひょこ


続・『ひょこたんの冒険』その1

エビを納め終わった後も、エビクイ人との同盟は維持されていた。

時間ができたひょこたんは地下都市遺跡を掘っていた。
遺跡を掘り起こすことは、過去に存在した呪われた文化をも掘り起こしてしまう恐れがある。
また、アレスタレスがそうなってしまったように、過去に存在した悪い霊に憑かれてしまう可能性もあった。
そうした危険は覚悟の上である。
そうまでして遺跡を掘るのも、過去を知りたいからだ。


一週間に一度の水曜日の午後、ひょこたんは一人遺跡に入って出土品を吟味していた。
ひょこたんが探していたのは、文字などが記録された情報媒体であった。
高度な技術を持っていた最盛期の文明は、朽ちることなくその姿を現す。
この最盛期の言語は、既に先人達によって一部解読されている。

しかし、肝心の衰退期の情報は、未解読の文字で書かれていた。
そのうえ、衰退期は技術力も低下していて、出土する物品も風化が進んでいる。
セラミックの上に石を並べて書かれた文字が、衰退ぶりを物語っていた。
衰退していく文明から、どのように現在のデカダン文化が形成されたのか?
ひょこたんが知りたいのは、この時期の情報である。


再び最盛期の文明に話を転じよう。
最も高い技術力を持っていたこの頃、人類は太陽系全域に進出を果たしていた。
広大な太陽系の往来を可能にしたのは、空間圧縮法と呼ばれた転送技術である。
空間の伸縮によって、光より遥かに速く情報は運ぶことができる。
その情報を使って、転送先では物や人が再構成される。
転送ゲートさえ存在していれば、遠く離れた惑星にも極めて短時間で移動することができた。

ひょこたん自身は気付いていなかったが、何度も都市遺跡に足を運ぶうちに、埋もれていた転送装置が息を吹き返しつつあった。
ひょこたんの持つ癒しの力によって、転送装置もまた機能を取り戻してしまったのである。
ある水曜日の午後、突如として転送装置は起動し、ひょこたんをどこかへ連れ去った。

つづく

続・『ひょこたんの冒険』その2

登場人物 

カイル・アルファズル‥ギリシャ系移民の末裔。火の力を持つ。

マボンジ・ムベンバ‥アフリカ系移民の末裔。アルファズルの忠実な部下。

西暦3000年、人類は太陽系全域に生活圏を広げていた。

しかし、貪欲な地球の企業は各地で経済的支配や物資の収奪を行い、惑星移民たちの反感が高まっていた。
こうした対立を背景に、惑星移民たちは自由惑星同盟(ADP)を結成して、地球からの完全独立を宣言した。
これに対し、地球では新自由連邦(NLF)を形成して惑星同盟に対抗しようとしている。

このような状況で、惑星同盟の部隊を最前線で指揮していたのは、火星のアルファズル大佐である。

ローマで起こった反乱をきっかけに、両軍は既に一戦交えており、惑星同盟の支援を受けた反乱軍は北アフリカや中東方面に勢力を拡げている。


火星で空間の歪みが検知されたのは、このような時であった。
転送ゲートから転送ゲートへと、人や物が送られる時、空間は極度に圧縮されて歪みが生じる。
それゆえ、空間の歪みはしばしば敵軍出現のサインとなる。

このように、突如として敵が現れるようになった戦場では、すぐに発進できる機動兵器が主力となっていた。

アルファズル大佐と、その部下のムベンバ大尉は緊急発進を行った。

マボンジ・ムベンバの乗る機体、アレスヒッポスのスピーカーからは、アルファズルのこもった声が流れた。
「空間の歪みが検知されたのは、この辺のはずだ。」


ムベンバが何かを発見して叫んだ。
「敵の機体は見えませんが、少女のような人が倒れています。」


「ムベンバは目がいいな。」アルファズルが応答した。


二人は旋回して、今度は地上すれすれを飛びながら着陸した。

火星の地面の上に倒れていたのは、少女のように見えるが、そんな年齢ではないひょこたんだった。


「まだ生きている。アラカーンの剣を持っているぞ。
まさかとは思うがな。」
アルファズル大佐はそう言うと、ひょこたんを回収した。

つづく


続・『ひょこたんの冒険』その3


ひょこたんは火星基地の医務室で眠っていた。
目を覚ますと、女性がニッコリと微笑んでいる。
女性は医療用ロボットであった。
側には、アルファズルやムベンバもいる。


「気が付いたな。」
金色の髪をした、アルファズル大佐が話しかけた。


しかし、ひょこたんには「з⊥жй#〆§」としか聞こえなかった。

ひょこたんは「ここはどこ?」と尋ねてみた。

しかし、火星の人たちには「⊿∮⊿∮σ》?」としか聞こえなかった。


「なんて言っているんだろう‥一体どこから来たんだ?」
アルファズル大佐も困り顔だ。

ひょこたんは、直接心に話しかける方法で「ここはどこ?」と問うてみた。


「何か聞こえたぞ。テレパスだろうか?
まさかとは思っていたけれど、やはりアラカーンであったか‥」
アルファズルには伝わったようである。


「ここは火星という所さ。」
アルファズルは、赤い星のイメージをひょこたんに送った。


「火星って、冗談でしょう?」
ひょこたんは両腕を拡げて、ひじから上を上に曲げる仕草をしてみせたが、この時代においては意味不明なポーズであった。


「大佐、どういうことなのです?」
蚊帳の外に置かれていたムベンバが質問した。


「私にもよく分からないが、とにかく言葉が通じないことは確かだ。」


ひょこたんには、子供向けの文字教材が与えられた。
文字の部分を押すと、発声がされる物だ。

ひょこたんにとっては、謎の文字の一部が解読できた瞬間だった。

つづく

続・『ひょこたんの冒険』その4

ひょこたんは自分に与えられた部屋で、語学に励んでいた。

電子コンテンツを閲覧してみて、この世界が自分のいた時代とは違うことに気がついた。
地球の映像には、高層建築物がそびえ立っている姿が映っていたからである。


ひょこたんが流ちょうに話せるようになった頃、アルファズル大佐が部屋にやって来た。
サングラスを外した大佐は、軍人にしては洗練された顔をしている。
「かなり言葉を覚えたそうじゃないか。
しかし、君は一体どこから来たんだ?」


「それが、自分でもどうやってここへ来たのか分からないんです。
地球から来たことは間違いありませんが。」
久しぶりに会った人間の男性に、ひょこたんは少し恥ずかしくなった。


「地球にいたアラカーンとその候補者は、我が軍に加わり、ローマの戦いで大きな戦果を上げた。
しかしその後、連邦のスパイに暗殺されてしまった。
もうアラカーンは存在しないと思っていたのだが、君は継承者なのか?」


「こことは別の時代だと思いますが、確かに私はアラカーンを継承しました。
おそらくは、一千万年後の世界です。」


「仮にその話が本当だとして、一千万年後の地球はどうなっている?」


「一千万年後の地球は、もっとのどかです。
この時代の記録は、地下都市遺跡として保存されています。
私の知る限りでは、今が最も人類の繁栄している時期です。
地球へ行って、もっと色々調べられたら良いんだけど。」


「一度地球へ行ってみるがいい。
人類の繁栄などというものが、偽物だと分かるだろう。
私としては、君に我が軍に加わって欲しいのだが。」


「軍ですって?
大佐は私に戦争をしろと言うのですか?
私は本来、病気を治すことを仕事にしている人間よ。
戦争で人を殺すなんて、まっぴらよ。」


「我々が行っている戦争も、いわば治療の一種だ。
この火星がかつてどんな色をしていたか、君は知っているか?」


「赤い色ではなかったんですか?」


「遠い昔、我々の先祖はここへ移り住み、先ずは地下に住んだ。
表面重力発生装置によって大気を固定し、菌類により土壌改良をし、気の遠くなるような手間をかけて植物を一つ一つ植えていった。
その結果、火星は緑と青の星に生まれ変わったんだ。
ところがだ、地球の強欲な企業がやって来て資源の収奪を行い、あっという間に赤い砂漠に変えてしまった。
地球の狂った文化を見れば、君もきっと気が変わるよ。」
アルファズルの怒りの気が、ひょこたんに伝わってきた。

つづく

続・『ひょこたんの冒険』その5


ひょこたんは、アルファズルの勧めるように地球に下りてみることにした。

ニュータウンはかつてどんな場所だったのか?
ひょこたんには興味があった。
現在、尾張市と呼ばれる所へ転送してもらった。

地球と火星とは交戦中であるので、転送ゲートは閉じられても良さそうなものだが、それは太陽系の盟主としての地位を自ら放棄することである。

それ故、地球は意地でも転送ゲートを閉じたりしないのである。

ひょこたんが着いた時、尾張市は夜だった。
新自由連邦の中でも屈指の工業都市である尾張市は、夜でも工場を稼動させている。

ひょこたんは、騒音を出しながら操業している工場の中へ入って行った。
途中、守衛の者に出会ったが、そうでなくても眠そうにしている守衛を眠らせることなど、ひょこたんにはた易い作業である。
工場には若年労働者が大勢働いていた。
機動兵器の部品を増産しているのである。
しかし不思議なことに、彼らには仕事以外の思念が何も感じられない。

ひょこたんは彼らの一人に近づいてみた。

すると労働者は突然話しかけてきた。
「僕ね、ニートでずっと親に迷惑かけてきたんだ。
でも、これからは世の中の役に立つよ。」


「そ、そうね。」
ひょこたんは取りあえず相づちを打った。


別の労働者にも近づくと、同じ反応をした。
「僕ね、ニートでずっと親に迷惑かけてきたんだ。
でも、これからは世の中の役に立つよ。」


女性の労働者も、セリフは違うが似たようなものだった。
「私、これまでやおい小説ばかり書いて、世の中に迷惑かけてきたの。
でも、これからは役に立つわ。」


彼らには自由意志というものが感じられない。
全員、頭にはヘッドギアの様なものを着けている。
それが洗脳装置であった。


新自由連邦では貧富の差が極端に開いており、貧しい階層は否応なく洗脳されて労働させられていた。


「本当にこんな馬鹿なことをやってたんだわ!」
ある程度は予想していた事だったが、ひょこたんは驚きの声を上げた。


新自由連邦の定めた“若年者適正化法”により、深夜の夜行列車に乗せられて彼らはやって来る。

連邦内の若者は尾張市のような工業都市に集められて洗脳されていた。


ひょこたんは工場から出て、街の中心部へ向かった。

先ずは地下へ降りてみる。
ひょこたんの時代には地下都市遺跡となっている場所だ。
想像どおり、地下都市は光り輝き、大勢の人で賑わう所だった。

そこでひょこたんは“OWARI CITY”と書かれた標識を見つけた。
ひょこたんの時代にも、それは存在した。


「一千万年も持つ物質とは一体どんな物だろう?」
ひょこたんは改めて驚嘆(きょうたん)の眼差しでそれを見た。

そして暫く近くのベンチで休んだ。

つづく


続・『ひょこたんの冒険』その6


再び地上に上がると、夜は明け始めていた。

昇ってくる太陽はいつの時代でも同じだ。

ひょこたんは何かを感じ、そちらの方へ歩き始めた。
以前触った感触のある何かだ。
ひょこたんは大きな建物の前で立ち止まった。
「尾張総合技術大学」門にはそのように書いてある。
守衛が何も言わなかったので、そのまま通過して中へ進んだ。


「分子生物学部棟」そう書いてある方へ進むと、朝早くから活動している人がいた。


「ああ !」廊下から部屋へ入った瞬間、ひょこたんは大声を上げてしまった。

ひょこたんが倒したはずのブランダがそこにいたからだ。
ブランダは、大勢の人工生物の上に君臨し、一千万年後まで生きた魔女だった。


「かわいらしいお嬢ちゃんね、何しに来たの?」
アネモネの刺繍のある、青い服を着たブランダはそう話しかけてきた。


「かわいらしいお嬢ちゃん」という言葉には馬鹿にしたような響きが感じられる。
前に会った時にも、同じことを言われた記憶がある。
或いは、本当に子供だと思っているのだろうか。


「ちょっと道に迷ってしまって‥‥」
ひょこたんは出任せの嘘をついてみた。


「そう。それにしては驚いていたわね。」
ブランダは鋭かった。


「本当のことを言うと、前にあなたに会ったことがあるの。
でも、前って言っても一千万年も後のことだわ。」
ひょこたんは正直に述べた。


一瞬、冗談だと思ったブランダだが、すぐに表情が変わった。
「あなた、私の研究に関して何か知っているの?」


「詳しいことは知らないけど、戦死した婚約者を取り戻そうとしているんでしょ。
それを果たすために、生命の研究をしている。」


「戦死じゃないわ。行方不明なだけよ。」
ブランダは少し怒りの表情を見せた。


「でも、諦めた方が良いと思う。
一千万年後にも、あなたは婚約者を取り戻せていないのよ。」


「決して諦めたりしないわ。
私は貴族なのよ。その辺にいる軽い女とは違う。
婚約者のグスタフとは、どこまでも運命を共にすると誓った。
だから、どんなことをしてでも取り戻してみせる。」

確かにブランダは貴族にふさわしい見た目をしている。
身に着けている物も身体も立派である。
また、物怖じしない振舞いからは、育ちの良さが感じられる。
それに比べると、ひょこたんは森の中で野生児のように育った。


「そうだ! あなたの言うことが本当だとすると、どうやってあなたはこの時代にやって来たの?
過去へ行く方法が分かれば、私の目的は達せられるのよ。」
ブランダは真剣な顔でひょこたんに迫った。


「それが‥‥私もどうやってこちらへ来たのか分からないの。」
ひょこたんは本当のことを言うしかなかった。


ブランダはこの後、一千万年も科学と格闘を続ける。
そして他人の命を犠牲にして、不老不死を続ける技術を編み出したのである。
ブランダの想いは、ただ恋人を取り戻したいという純粋なものだった。
しかし、長い時間の経過がおぞましい結果をもたらしたのだ。
もし、ひょこたんに殺されずに、そのまま時間の終わりまで生きたらどうであっただろう?
待っていたのは、十中八九、孤独と絶望だったろう。
しかし人間というのは、僅かでも望みがあれば生きていけるものなのかも知れない。

つづく


続・『ひょこたんの冒険』その7

登場人物…ゴルジ・フッテン…ホームレス風の青年

執拗なブランダの追及を逃れて、ひょこたんはなんとか大学を出てきた。

お腹が空いたけれど、お金を持っていない。

なにしろ地球では、トイレに入るにも小銭が要るのだ。

そろそろ帰ろうかと思ったひょこたんだが、アンドロイドに追われている男を見つけた。
ゴルジというホームレス風の男である。
ひょこたんは追いかけて、サーベルでアンドロイドを破壊した。


ゴルジはなぜか怒りの表情で言う。
「何すんだ!
このタイプのロボットは調査するだけだ。
簡単に巻くことができるのに。
これを壊すと、そのうち暗殺用の恐ろしい奴がやって来るんだ。」


「あなたが必死で逃げていたから、危ないのかと思って…
でも、どうして追われているの?」


「工場で働かずに、逃げ回っていたからだ。
洗脳されて働くことは、立派なことだと教えられてきたが、どうも馴染めない。
俺は変わり者なのさ。」


「彼らが立派だなんて私も思わない。
たとえ肉体が生きているにしても、魂は死んでいるわ。
人が頽落した姿よ。」


「君も変わり者の口か。
ても、そう言ったところで、この先どうすりゃいいんだ。」


「武器を持って戦えばいいじゃない。
ちょうど火星に帰るところだから、あなたも行って仕官すると良いわ。」


「驚いたな。
君は火星人だったのか!」


「そういう訳でもないけど、面倒な話は向こうへ着いてからにしましょう。」


「どうなることやら分からないけど、
一か八か、行ってみるか。」


ひょこたんは火星に現在地を伝えて、転送を要請した。

ゴルジと出会ったことで、傍観者だったひょこたんもだんだんとこの世界に引き込まれていくのであった。

つづく



続・『ひょこたんの冒険』その8

火星に帰ってみて、ひょこたんは昼間の空の暗さに愕然(がくぜん)とした。
それにもかかわらず、大佐がサングラスをしているのは何故だろう?


ひょこたんは様子を見に来たアルファズルに訊いてみた。


大佐は座って答える。
「ああ、これか。
確かに地球程空は明るくない。
火星は大気が薄いんだ。
地磁気のバリアも薄い。
だから有害な宇宙線が、地球以上に降り注ぐ。
それだけがサングラスをかける理由でもないが。」


「他にどんな理由が?」


「あまり目の動きを他人に見られたくない。
病気かな?」
アルファズルはサングラスを外してニヤっと笑った。


「病気かどうかは程度問題ですが、確かに他者の眼差しというのは人間を不自
由にするものです。」



大佐は再びサングラスをかけて訊いた。
「ところで、地球はどうだった?」


「地球では、洗脳された人間達が夜も工場で兵器を造っていました。」



アルファズル大佐は続ける。
「地球の都市は昔、“都市の空気は人を自由にする”などと言われ、自由の象徴だった。
しかし今は違うな。
人々は都市に連れて来られて、生産組織の中に組み入れられ、生ける屍のようにされてしまっている。」


「でも、地下都市では自由に買い物をする人達がいたわ。」
ひょこたんが述べた。


「それは貴族だろう。
我々の先祖はそうした支配や洗脳というような地球の文化を嫌って、火星に移住したんだ。
最初は過酷な環境との闘いだった。
しかし我々の移住が成功すると、自由を求める人々は次々と他の惑星にも移住するようになった。
今では、惑星とその衛星に住む人々は、地球の人々の二倍にもなる。
その人々に共有される理念は、“個人の自由意思を尊重する”だ。
皆それを求めて地球を脱出したのだから。」
アルファズルは力説した。


「だからと言って、大勢の死人が出るような戦いをしなければならないものなの?
地球で婚約者を失った女性に会ったわ。
グスタフとか言う婚約者が戦争で行方不明になったのよ。
彼女の苦しみがどれ程のものか‥私には直接伝わってくるの。」
ひょこたんの心に、再びブランダの不安と絶望が蘇った。


「グスタフはローマの戦いで、我々が標的にしていた司令官の一人だ。
おそらくもう生きてはいないだろう。
戦いとは、苛酷なものだ。
しかし、これは人類の進歩をかけた戦いだ。
反人間的で物質中心主義の地球に対して、我々は自由で解放された文化を築いた。
無重力と果てのない宇宙空間が、我々を解放したんだ。
君がもし我々に味方するつもりなら、先ずはシュミレーションで訓練を積むんだ。
そろそろ連中も攻勢に出てくるぞ。」
そう言うと、大佐は去っていった。


つづく




続・『ひょこたんの冒険』その9

ひょこたんはまだ迷っていたが、シュミレーションルームへ行ってみた。

機動兵器の操縦や戦闘のシュミレーションを行うことができる部屋である。
レジャマンという青年が、既にシュミレーションを行っていた。

ひょこたんはその隣の席に座った。

コックピットに模した席には、操縦器類やモニターが並んでいる。


レジャマンはぞんざいに話しかけてきた。
「ヨウ、新入り。初めてかい?
まあ適当に動かしてりゃ、そのうち覚えるよ。
シュミレーションだからな。」


「未来には機械なんてほとんど無いのよ。
時計は在るけどね。」
ひょこたんは困惑顔だ。


「ふぅん。未来なんて所があるのか。
よほど田舎なんだな、そこは。
俺はフォトジャーナリスト志望なんだけどよ、なかなか世間じゃ認められなくてな。
それで、取材も兼ねてここに入ったんだ。」


「へぇー。フォトジャーナリストが何なのかすら知らないわ。」


マニュアルに従いながら、ひょこたんは適当に動かしてみた。

スイッチを入れて離陸するところまでは上手くいったが、目の前にリアルなビルの映像が迫ってきた。


「うぁあああ! ぎゃあああ!」
思わず大声を出してしまったひょこたんだった。


「シュミレーションだって言ってるだろうが。
脳内でリアルな映像や感覚が構成されるだけだ。
本当に衝突する訳じゃない。
痛みも幻覚だ。」
レジャマンが諭した。


「こんな物を造れるだけの技術があるのに、なんでまた戦争なんかしてるんだろう?」
ひょこたんが質問した。


「俺の勘では、こんな物を造れるからこそ戦争をしてるんだと思うがな。
人類は文明生活に入ることによって、より好戦的になったんだ。
後で俺の写真集を見せてやるよ。」
レジャマンが答えた。


ひょこたんは再びシュミレーションに挑んだが、その後も悲鳴は続いた。

シュミレーションの後、レジャマンが地球で撮ったという写真を見せてもらった。
最初の写真には、ローマでの戦闘の様子が写されていた。

大きな盾を持った機動兵器が隊列を組んで戦っている。

ギリシャ・ローマ伝統の密集戦法だった。

次の写真は、両親が首を吊ってぶら下がっているところを、子供が下から見上げているというものだった。


「な、なんじゃこりゃ~!」
ひょこたんは驚いた。


レジャマンは言う。
「お前も妙な言葉を使う女だな。」


「ごめんなさい。
まだこちらの言葉には慣れてなくて…
でも、これはどういう事なの?」


「サラ・キーンという高利貸しから借りた金が返せなくなったのさ。
サラ・キーンの弟は新自由連邦の大統領で、弱肉強食政策をやっている。」


三枚目の写真は、収容所に収容された老人たちの姿だった。


「これもその大統領のやっていることで、老人を生かしとくと金を食うばかりだから、殺すんだとさ。」
レジャマンが解説した。


ひょこたんは次々と写真をめくってみた。
「酷いわね、この写真集。
なぜ売れないのか分かるような気がする。」 


「だが、これが地球の真実というものさ。
目を背けたところで、消えて無くなる訳じゃない。
ひどいのは写真じゃなくて現実の方だ。」

つづく






続『ひょこたんの冒険』その10

ひょこたんの操縦シュミレーションは続いていたが、なんとか飛べるようになったばかりだった。
そんな時、シュミレーションルームで出会ったのは、イム・ニダ・スギョンという少女だった。

興味を持ったひょこたんは話しかけてみた。
「どこから来たの?」


「地球。」


「あなた随分若く見えるけど、本当は何歳なの?」


「14歳よ。邪魔だから話し掛けないで!」


「そう、ごめんなさいね。」


ある日、アルファズル大佐に出会ったひょこたんは、スギョンの件を問い詰めた。
「どうしてあんな子供を戦争に巻き込んだりするのよ。」


「別に私が巻き込んだ訳ではない。
自分で志願して来たんだ。
14歳と言えば、もう子供なんかじゃないさ。」
大佐は悪びれることもなく答えた。


「自分で志願してきたって…?
14歳の少女が志願する理由なんてないでしょう。」


大佐はサングラスを外して答えた。
「スギョンが学校から帰ってくると、両親は首を吊って死んでいたんだそうだ。
新自由連邦では、そういう少年少女が増えている。
地球では弱肉強食政策の結果、食えなくなった者は高利貸しから借りて生活をしている。
そして、その借金も返せなくなると、自ら命を絶ってしまう。
スギョンは新自由連邦を倒そうと、自らの意志で火星にやって来たんだ。
彼女に復讐をさせるのが残酷なのか、それともさせないのが残酷なのか、よく考えてみるんだな。」


ひょこたんは自分が14歳だった頃を思い出してみた。
森に生贄として捧げられ、命がけで脱出した忌まわしい記憶がある。
子供はいつまでも子供の世界に住んでいて欲しいと思うのが、大人の考えることだ
が、子供は現実を見ているものだ。


再びサングラスを掛けて、大佐は述べた。
「数日後に地球へ行くぞ。
君はどうする?
小さな作戦だが、いい実戦経験になるはずだ。
今回は私の隣の席に座っているだけでいい。
戦場がどんなものか、見てみるのも悪くはないだろう。」


「分かったわ。私も行ってみる。
スギョンのような子供にやらせるくらいなら、私がやる。」
ひょこたんは決心した。


数日後、十機ほどの機動兵器が尾張市上空に現れた。
これまでは辺境地で行なわれていた戦闘が、大都市にまで拡大したことに尾張市の人々は驚いた。
しかしこの作戦は目くらましであった。
惑星同盟側は尾張市を爆撃する一方で、別働隊が北アフリカに自前の転送ゲートを建設していたのである。


ひょこたんより後から火星に来たイム・ニダ・スギョンはもう実戦で飛んでいた。
プシュケーと名付けられた機体で、対空砲をかわしながら、ひらひらと飛んでいる。
それは彼女の才能なのか、それとも機体の特性なのか、ひょこたんには分からなかったが、モチベーションの違いを見せつけられた。

つづく


続『ひょこたんの冒険』その11

田野上少佐…新自由連邦の士官…命令に反して出撃する。


尾張市に現れた機動兵器は、艦上壱式を先頭に爆撃を開始した。
艦上壱式はアルファズルが開戦当初から使っているものである。

その頃、迎え撃つ新自由連邦の士官たちは大いにもめていた。
本国からの指令は、決して戦うなという奇妙なものだった。
馬(マー)大佐は本国の命令に従うべきだと主張するのに対し、田野上少佐は反撃を主張して聞かなかった。
その結果、田野上少佐がたった一人で出撃するという異状な事態となった。


一方、ひょこたんたちは…


「爆撃は二の次でいい。
高度を保って飛べ。
これ以降、通信ができなくなるぞ。」
アルファズルが最後の注意を与えて、各機電磁シールドを装う。


田野上少佐は前方に現れると、二発のサイドワインダー(ミサイル)を発射した。


「うわ~! ガラガラヘビだー!」
レジャマンが叫んだ。


おとり熱源も発射されたが、不運にもレジャマンの機体にガラガラヘビは寄り添ってきた。


「やばい! 命中だぁ~!
機体が回転してるぅ~!」
レジャマンは必死で叫んでいた。


「自動操縦!」
ひょこたんはメッセージを送った。


「自動操縦…そうか!」
レジャマンの機体は地上に落ちる前に、なんとか体勢を回復した。


他方、反撃をうけた田野上少佐の機体は、集中砲火を浴びている。
田野上はパラシュートを開いて戦線離脱していった。


こうして上空で戦いが行われていた時、地上ではサイレンが鳴り響き大混乱となっていた。

混乱に乗じて、ハルジーとシバージーという二人の老人は博物館で盗みを働こうとしていた。

「おいハルジー、こんなの使えるのかい?」

「動けばなんとかなるさ。」

二人が物色していたのは、ASI-Atypeという、旧日本製の作業用ロボットだった。

あらかじめハルジーが目星をつけていた物である。

新しいバッテリーを取り付けると、二人の老人は操縦席に乗り込んだ。

「シバージーも、やるじゃないか。」

「こう見えても尾張電高の出身でな。
昔とった相撲とか言うやつだ。」


二人の老人は老人収容所へ向かうと、次々と建物や牢屋を破壊して、老人たちを解放した。

「ようし、皆各自勝手に逃れよ!」

「長生きしてたら、また会おう!」

ハルジーとシバージーは叫んでいた。

つづく


続『ひょこたんの冒険』その12


尾張市への爆撃の次の日、地球のマスコミはいっせいに爆撃の様子を報道した。

“異星人の船が都市を攻撃した”電字新聞にはそのようなタイトルが躍り、テレビでは火災映像が流され続けた。

ひょこたんとレジャマンは共用広場のテレビを見ている。



レジャマン
「すっかりダシに使われちまったようだな。
まあ、メディア戦略ではかなり水をあけられたな。」


ひょこたん
「怖い思いをしたようだけど、あなたは大丈夫だったの?」


レジャマン
「まあな。
でも、俺に戦闘員は向いてないみたいだ。
これからは戦場カメラマンに徹するよ。」


この時、イム・ニダ・スギョンが偶然通りかかった。

スギョンは妙な文字の書かれたシャツを着ている。

その文字はバーと○や□などで構成されていた。


ひょこたん
「ちょっと聞いても良いかしら?
その文字には一体どんな意味があるの?」


スギョン
「これは古い民族文字で、意味はないわ。
表音文字なの。」


ひょこたん
「そうか! 音を表す文字だったのか。」



さらにひょこたんは、母音や子音についても教えてもらった。
それらの文字は、ニュータウンの衰退期を支えた民族の文字に良く似ているものであった。
スギョンはその後、アフリカ戦線に送られて活躍することになる。


一方、アルファズル大佐の所には、武器商人のイセキがやって来て話をしていた。


イセキ
「大佐のお使いになっている艦上壱式は、装甲も薄く、
火力も今一つで、そろそろ買い替えの時期かと…」


アルファズル
「機動兵器がハイパワー、多機能になるのは結構だが、その度に操作性が低下していくような気がする。
つまり、反応が遅くなっている。」


イセキ
「それならば、このインフェルノはどうでしょう。
試作機で、まだだれも持っていません。
これならばサクサク動くはずです。」


アルファズル
「インフェルノ(地獄の業火)か。
私にふさわしい名前かも知れない。」


イセキ
「この操作性がお気に召したらば、他の機動兵器にも同じ回路を取り付け致しましょう。
今ならば大変お買い得になっております。」


アルファズル
「商売上手だな。」


イセキ
「これは秘められた能力を持つ次世代機です。
乗る人の能力に応じて進化します。
必ず値段以上の働きをするでしょう。」


兵器は充実したが、必ずしも良いことばかりでは無かった。
中央アジアやアフリカの戦いでは押され始め、さらに悪いことにフレキシ准将の戦死が伝えられてきた。
様々な利害を持つ惑星同盟を、一つにまとめてこれたのは、フレキシ准将の政治力によるところが大きかった。


つづく


続『ひょこたんの冒険』その13


登場人物…クロノス・サトゥルヌス…土星出身の人物だが、連邦側に加担する。


冥王星。
太陽からの距離はあまりに遠く、凍りついた大地と薄い大気しか無い。
この不毛の地には、凶悪犯収容所が置かれている。
厳しい環境のため脱走は不可能である。


惑星同盟を束ねていたフレキシ・ブル准将戦死の影響は大きく、早くも反動行動を始める人物がいた。
クロノス・サトゥルヌスがその人である。
クロノスは、スナイパーであるリュイ・ブーセンの身元引受人となり、冥王星まで出向いていた。
リュイ・ブーセンは天才的なスナイパーだったが、両陣営から恐れられ、凶悪犯収容所に閉じ込められていたのであった。


クロノスとリュイは冥王星の転送ゲートで話しながら、地球への転送を待った。


クロノス
「お前には特別に専用機を用意して期待している。
カトルフィッシュ・スナイパーという高価なものだ。」


リュイ
「それがどんな物かは知らないが、イカじゃないことを祈るよ。
一つ訊いてもいいかい?」


クロノス
「何だ?」


リュイ
「土星勢力のあんたが連邦側に味方するのは何故なんだ?」


クロノス
「火星の勢力が余りに勝ち過ぎるのも、困るのだ。
火星は第二の地球となって、俺たちを抑圧するようになるだろう。
火星など地球と同じ土地持ち貴族だ。
本当に惑星移民として苦労を知っているのは、木星より外側にいる人間だけだよ。」


リュイ
「そうかい。
まあ、俺としては助けてくれたあんたに恩を返すまでだ。」



一方、ひょこたんたちは月の制圧に向かっていた。

機動兵器の損害を抑えるため、巨大長距離砲で月の司令部を狙う作戦にでた。


そうとは知らぬ、連邦のジャラール軍曹とスニータ上等兵は、すっかりくつろいでいた。


ジャラール
「なあ、スニータ。
月にはでかいウサギがいるって聞いたことがあるか?」


スニータ
「ないねえ。
そんなでかいウサギがいようものなら、ウサギ汁百年分だよ。」


ジャラール
「じゃあ、でかいカニがいるってのは聞いたことがあるか?」


スニータ
「カニ汁百年分だろうね。
いや、待って。
窓の外。
遠くに見えるの、あれカニじゃない?」


ジャラール
「カニじゃない !
敵の機動兵器だ。」


月の基地からは、バッカル・コーン大尉が緊急発進して、敵の接近を防いだ。

ジャラールとスニータも後に続いた。


バッカル・コーン
「こいつら、前に戦った時よりも動きが速くなってるぞ。」


ジャラール
「なんか嫌な予感がしてきた。」



予感は的中しており、ひょこたんとアルファズル大佐は遠くから長距離砲を構えていたのだった。


アルファズル
「こういうのはアラカーンの得意技なはずだ。
しかし、私でも撃った後に、“当たった”という感じを得た時は、本当に命中しているのは何故だろう?」


ひょこたん
「私たちの体を構成している波動というものは、理論上は遠くの方まで広がっているとのことです。
つまり、理屈の上では遠くの標的とも、私たちの体はつながっているということですね。」



アルファズル
「千里眼というものも、そうしたものかも知れないな。」


つづく


続『ひょこたんの冒険』その14


ひょこたんの放った巨大長距離砲により、連邦軍の月司令部は吹き飛ばされてしまい、生き残った将兵も降伏した。

最後の決戦に向けて、木星や土星の衛星軌道上にある都市では、機動兵器の量産も進んでいる。

一方、アフリカ戦線に送られていたスギョンはジャングル地帯で戦い、悪魔の白蝶と恐れられるまでに成長していた。

短期間のうちに撃墜した敵機の数は100機に迫っており、総数でもムベンバに次ぐ記録である。

そのスギョンも決戦に向けて呼び戻されている。

しかし、ひょこたんの気分は晴れなかった。

なんとなく、スギョンへの嫌悪の情がわいて来て仕方がなかった。

他人の心であれば、すぐに分析してみせるところだが、自分の感情は不可解なままである。


作戦の前日、大佐に呼ばれて最後の打ち合わせを行った。


アルファズル
「明日は、ネモフィラというアラカーン専用機に乗ってもらうことになる。
これにはアラカーンの精神波を増幅する機能が付いている。
敵の将兵に向けて放てば、ほとんどの者を眠らせることができるだろう。
ただ、効果が無い者も若干いると思う。」


ひょこたん
「味方の突入前にそれを行うのですね。」


アルファズル
「そうだ。
その瞬間は危険にさらされるが、そう簡単には壊れないようにできている。
目標は敵の首都にある基地になる。
問題はそこへ行くまでに、降下と着地を行わなければならないことだ。
護衛機も付けるが、あまり固まっていると狙い撃ちされるぞ。」


ひょこたん
「無謀な作戦のようにも思えますが。」



アルファズル
「そんな無謀なことはしないだろうと、向こうも思っている。
だからやる価値もあるというものだ。
ところで、ご褒美という訳ではないが、これをもらってくれないだろうか。
アレキサンドライトという宝石で、宇宙線などを防ぐ効果もある。」


ひょこたん
「まさか、形見分けでは?」


アルファズル
「そんな妙な風習はここには無いよ。
人には持って生まれた天命というものがあるようだ。
死ぬ時はどんなにあがいても死ぬものさ。」


これに先立ち、ハルジーとシバージーという二人の老人も、決戦に合流しようと荷物をまとめていた。


ハルジー
「おい、シバージー。
本当にこんな作業用ので戦うつもりなのか?」


シバージー
「実はな、少年が“こんなもの!”とか言って回路を放り投げてたんだよ。
それを拾ってきて取り付けたら、やたらと動きが速くなったぞ。
きっと今頃後悔してるだろうな。」

ハルジー
「最近の若い奴らは物をポイポイ捨てるんで困る。
今頃、取り返しのつかないことをしたと思っとるだろうな。
なんでも拾ってきて取り付ける、お前もどうかとは思うけど。」


ハルジーとシバージーは船で旅立った。

つづく


続『ひょこたんの冒険』その15


登場人物…

ロナウド・キーン…新自由連邦大統領。サラの弟。

サラ・キーン…新自由連邦を金で支配する。



新自由連邦の首都は、合衆国時代にLos&Angelesと呼ばれた西海岸の都市である。

「天使という言葉が入っているのは不吉」という占い師の進言を入れて、今やSodom&Gomorrahという名前に改名されていた。

しかし、それにもかかわらず天の使いは降りてきた。

500機を超える機動兵器が、夜の空に火の柱を噴射しながら次々と降下を始めた。

住民は天体ショーでも見るように、指さして声を上げる。

天の使いたちは地表に近づくと、噴射を最大にして着地した。

それらは全く天使に似てなどいない。

多くは、一つ目の巨大な鬼たちであった。


途中、一割程が撃墜されたものの、生き残った者たちは夜明けを合図に攻撃を開始した。

向かえ撃つ連邦軍は、核兵器で応戦した。

五角要塞内にある大統領執務室では…



サラ・キーン
「誰だ?要塞の中で核兵器なんかぶっ放しているのは?」


ロナウド・キーン
「おそらくタノガミかと。」


サラ
「またあの男か…
指揮官クラスはWASPで固めるように言ったではないか。」


ロナウド
「有能な指揮官は中央アジアやアフリカ方面に出払って、誰もおりません。
タノガミはあれでも、尾張人の忠義とやらを尽くそうとしているのです。
こちらへ向かって撃ってこないだけでも、マシだと考えましょう。」


サラ
「そんな体たらくだから、あちこちで反乱が起こるのだ。」


ロナウド
「姉上こそ無茶な金集めなどせず、もう少し政治に心を砕いてくだされば、こんなひどいことには…」


サラ
「無茶な金集めなどではない。
金融工学というアカデミックなものだ。
私の金の力で大統領になれた者が、一人前の口をきくものだな。」



一方、惑星同盟の軍勢は五角要塞の東側に集結していたが、田野上の砲撃が凄まじいため近づけずにいた。


ハルジー
「どうやら、わしら年寄りの出番が来たようじゃの。」


シバージー
「戦場では年寄りが一番恐ろしいということを、思い知らせてくれようぞ。
皆、後ろへ下がっておれ。」


ハルジーとシバージーは田野上の核兵器に向かって突進した。
ASI-Atypeには、道中拾ってきた無数の機雷が積まれている。


田野上
「この動きは、新型か? 
まさか、特攻か?
小癪な。」


田野上は狙いをつけて撃つも、ASI-Atypeの動きは恐ろしく速かった。
核兵器は特攻で大破炎上した。



レジャマン
「ヤバッ。
ガイガーカウンターが20シーベルトを超えてるよ。」


アルファズル
「止むを得ない。
安全基準を30シーベルトにまで上げよう。
安全は私が保障する。」


レジャマン
「どういう保障なのさ。」


マーピー神父
「不安な方は一服盛って進ぜよう。」


レジャマン
「あんたは盛りすぎ。」



ひょこたんは精神を統一して、ネモフィラに気を注入した。


その頃大統領執務室では…


ロナウド
「頭の中に薄暗い森のイメージが見えた。
“永遠の調和、永遠の静寂、永遠の慈悲”
何だこのメッセージは?」


サラ
「私はちょっとトイレへ行ってくる。」


ロナウド
「お待ちください姉上。
私もお供します。
ううっ、何だこの眠さは…」


サラ
「安心しろロナウド。
お前の息子は、もう逃がした。
心置きなく最後まで戦え。
さらばだ。」


大統領は床に崩れ、眠ってしまった。
周りにいた参謀たちにも、そうした者が続出した。


つづく

 続『ひょこたんの冒険』その16


ひょこたんの精神波で敵を眠らせた後、惑星同盟の部隊は突撃を開始した。


アルファズル
「ようし、そろそろ良いだろう。
勇気のある者だけ続け!」


ゴルジの率いる部隊が続いた。
ゴルジは中央アジア方面に送られ、集団戦術を会得していた。


ゴルジ
「ホームレスの力がどれ程のものか、見せつけてやりましょう。」


アルファズル
「見せてもらおうか、そのホームレスの力とやらを。」


新自由連邦の兵器アッタウは、要塞を守るために特化されており、とても頑丈だった。

だがゴルジ隊は10人程の集団で連続攻撃を行い、次々と敵を突破した。


ネモフィラは突撃用ではないため、ひょこたんは要塞の屋上へ移動して待った。

するとそこへ、血相変えたサラ・キーンが一人で屋上へ上がって来た。

サラ・キーンはネモフィラに一瞥をくれたが、そのまま屋上にあった乗用機を発進させた。

しばらく飛ばせた後、ひょこたんはロケット弾を発射した。

接近戦は苦手だが、これは自信がある。


ひょこたん
「成仏を念じてあげる。
あなたの殺した人たちが大勢待っているけど。」


数秒後、サラ・キーンは旅立った。



一方、アルファズルは大統領執務室に迫り、最後の局面を迎えていた。

突破に弾薬を使ったため、皆弾切れだった。


アルファズル
「危険だから皆さがっていろ。」


アルファズルがインフェルノのレバーを引くと、もの凄い火炎が大統領執務室を包んだ。

さらに恐ろしいことに、火炎の中から地獄の入り口が開き、獄卒たちがとび出してきた。


(参考:地獄の口)

目を覚ました大統領は叫んだ。


ロナウド
「こんな化け物までが、敵の兵器なのか!」


アルファズル
「これが我が運命(さだめ)であったか…」


地獄の獄卒たちは大統領の他、参謀のボルドンやラムジー、チャイナーなども捕らえた。

地獄の入り口は大統領や参謀を飲み込むと、インフェルノと共に姿を消してしまった。


この後も、ムベンバを中心に戦闘は続き、数時間後に首都は同盟側の占領するところとなった。



戦い終わって、ひょこたんたちは要塞の一郭に集まっていた。


ムベンバ大尉
「大佐は戦死なされた。
今後は私が大佐の遺志を継いで戦い続ける。
異存は無いか?」


レジャマン
「異存はないけど、大佐はどこへ行っちまったんだ?」


マーピー神父
「実はな、大佐は大天使ミカエルの化身でな。
必要がある時には、またこの世界に出てくる。
それ故心配いらないのだ。
ひょっとすると、ひょこたんとやらも天使かも知れんぞ。
緊急に必要な時には、着の身着のままで天使は召喚されることがある。」


レジャマン
「ははは。
ひょこたんが天使?
マーピーは、また変な薬を自分で盛ったな。」



この時、眠りについていたリュイ・ブーセンがようやく目を覚ました。

カトルフィッシュ・スナイパーから放たれたビームは、真っ直ぐに進んでひょこたんを直撃した。

ひょこたんは気が遠くなり、意識を失ってしまった。

つづく


 続『ひょこたんの冒険』その17


ひょこたんは、薄暗い地下都市遺跡で目を覚ました。

発掘用のランプも点いたままだ。

どういうことだ?

ひょこたんは遺跡の外へ出てみた。

馬のミミタス号が繋いである。

ひょこたんの唯一の家族だ。

元の世界へ帰ってきたのだ!

ひょっとして、すべてが夢だったのだろうか?

ひょこたんは懐に手を入れて、宝石を取り出してみた。

有った。アレキサンドライト。

アルファズル大佐から貰ったものだ。

大佐はいつの間にか、ひょこたんの心の中で多くを占めていた。

スギョンを好きになれなかったのも、こんな原因があったのだ。

しかし、アルファズルにしても、スギョンにしても、とっくの昔に亡くなっている。

一体何のために、自分は過去へ呼ばれたのか?

超越的な力が働いたには違いない。

だが、そんな超越者がいるのなら、なぜこの世は悲しいことばかりなのか?

疑問を抱きながら、ひょこたんはニュータウンの町へ出た。


驚いたことに、人参を目がけて突っ走る人たちは、以前に比べると極端に少なくなっていた。

どういうことなのだこれは?

ひょこたんに思い当たることは、自分が過去へ行ったことによって、歴史が変わったのではないかということである。

ひょこたんが行かなければ、ゴルジの活躍は無かった。

最後の要塞での戦いでは、味方の犠牲者をかなり少なくすることができた。

また、サラ・キーンの逃亡を阻止したことも大きい。

それらがどの位、後の戦局に影響を与えたかは分からないが、考えられるのはその事だ。


この日はそのまま家へ帰り、ミミタス号に餌を与えた。

家の中は、昼に出発した時のままになっていた。

野菜の切れ端などから、出発した時から数時間しか経っていないことが推測できた。

つづく



 続『ひょこたんの冒険』その18


夜になり、ひょこたんは夜空を見上げた。

赤い火星も見えるが、何の思念も感じられない。

おそらく、もう誰も住んでいないのだ。

太陽系に繁栄した人類は、一体どこへ行ってしまったのだろう?


次の日も、癒しの仕事はお昼までにして、ひょこたんは遺跡へ出かけた。

まず、西暦3000年頃の戦争に関する本を探してみた。

直接それを書いた本は見つからなかったが、漠然とした歴史を書いたものがあった。

スギョンという女戦士は恐ろしいという記述はあるが、肝心の戦争の結末が書いてない。

どうやら地球側から書かれた歴史のようだ。

スギョンという名を見て、ひょこたんは文字の読み方を習ったことを思い出した。

衰退期を支えた謎の民族の文字は、スギョンに習った文字に似ている。

それらの多くは粘土板に石を並べて刻まれていた。

ひょこたんは、粘土板が置かれている部屋へ移動して、解読に挑戦してみた。

文字は読めそうだが、しかし意味が分からない。

解読にはまだまだ時間がかかりそうだった。

もっとも、文字が読めるというのは一つの手がかりではある。


ひょこたんは諦めて、再び本の方へ移動した。

アルファズル大佐の思想の源流を調べようと、ギリシャに関する本を探してみる。

見つけたのは、ギリシャの演劇に関する本だった。

開くと、仮面を着けた役者の挿絵が入っている。

仮面は、仮面に表現された人の霊や神を呼び込むための、装置の役割をするという。

この点にひょこたんは興味を持った。

ひょこたんが持つ木の力は、癒しの効果を持つが、それ自体は余り大きな力ではない。

しかし、強い力を持つ霊を呼び込むことによって、大きな力を発揮することができる。

似ている所がある。

また演劇は、英雄の死や神々の悲劇を内容としていた。

人間というものは、たまには非日常的世界を見たくなるものらしい。

ひょこたんの生まれたぶわぶわ村では、神に生け贄を行うことによって、それを満たしてきた。

生け贄を、神の世界へメッセンジャーとして送ることで、人々は神と一体になる。

しかしギリシャ演劇では、死や悲劇を演じることで、それを神にささげ、神と観衆とが一体になるのである。

擬似生け贄行為ではあるが、死者を出さずに済むところは優れている。

これらに比べると、ニュータウンの人参の追いかけは、非日常的世界の存在が忘れられてしまっている。(注)

もはや人々は、神を見る幻想力を失ってしまっていた。

これは悪いことであると、断定することもできないが、文化的貧困の状態にあることは間違いない。


つづく



続『ひょこたんの冒険』その19


ひょこたんは、久しぶりにひっ子さんことアンフェルメのもとを訪れていた。


ひょこたん
「……という訳で、一年位は過去の世界へ行ってたのよ。」


アンフェルメ
「一炊の夢などと言って、長い夢を見ることもあるわね。」


ひょこたん
「だから、夢じゃないんだと言うのに。
向こうの世界では、機械がすごく発達していて、病気も機械が治したりする。
また、物質を自由自在に操作できる。
一千万年前の標識や本が未だに朽ちていないのよ。
でも、お金が猛威を振るう社会だったわね。」


アンフェルメ
「物質を自由自在に…ということは、私の顔も自由に変えることができる?」


ひょこたん
「もちろん。」


アンフェルメ
「行ってみたかったな、そんな世界。
顔を変えて、もう一度人生やり直したい。」


ひょこたん
「なんだかんだ言って、あなたもまだ世の中に未練があるんじゃない?」


アンフェルメ
「そうなのかも知れないわね。」


ひょこたん
「そう思って、あなたに面白い本を持ってきた。
ギリシャ演劇って知ってる?」


アンフェルメ
「神話なんかを、人間が再現してみせるものでしょ。」



ひょこたん
「よく知ってるね、そんなことまで。」



アンフェルメ
「前に、アレスタレスというおじいさんから教えてもらったの。
行方不明になっちゃったけどね。
でも、演劇なんかを私に勧めてどうするつもり?」



ひょこたん
「先ずあなた自身が、なりたかった自分になることができる。
様々な仮面を着けることによって、どんなものにも変身できる。
仮面には定型化された仮面の霊が降りてきて、あなたを助けてくれるわ。」


アンフェルメ
「それだけ?」


ひょこたん
「超越的世界を見せることによって、物質世界の中に閉じ込められている町の人々を解放することができる。
あるいは、人の顔がどうだとかいう狭い記号的世界から、人々を解放することができる。
言わば、世の中を変えることができるのよ。
そうなれば、あなたにとってもうんと住みやすい世の中になるでしょう?」


アンフェルメ
「霊を降ろすなんて、私には無理。」


ひょこたん
「最初は霊を降ろす必要なんてないのよ。
仮面を着けて演劇をしているうちに、霊は自然に降りてくるようになる。
心配ならば、あなたにこのヒスイをあげましょう。
教会からの頂き物で、霊を呼び込む力を増してくれる。」


アンフェルメ
「そんな物を貰っても、やると決めた訳じゃないわよ。
気が向いたらやってみようかな、というくらいの気分。
ああそうだ。
アレスタレスが旅に出る時に、私に預けていった翻訳辞典が有るわ。
あなたなら使いこなせるでしょう。
持って行くといいわ。」



ひょこたん
「もしアレスタレスが帰ってきたら、どうするつもり?」



アンフェルメ
「もう帰ってこないわ。
勘で分かる。
もし帰ってきたら返せばいいだけ。」


ひょこたん
「それならありがたく借りておきましょう。
お邪魔しましたね。」


ひょこたんは帰り道、翻訳辞典を見て驚いた。

それは、ひょこたんが過去へ言って習得した言葉と、衰退期の言葉とを繋ぐ翻訳辞典だった。


つづく


続『ひょこたんの冒険』その20

週末は、集まってくる子供たちと遊んだり、知識を授けることに費やしていた。

もっとも子供と言っても、既に成人に近い者もいる。

ひょこたんは子供たちに、町に子供議会を開くことを提案した。

人参の追いかけを止めさせるには、町を動かす必要がある。

町議会もあるが、議員は世襲であり、事実上機能していない。

大人の議会を開くように要求する手もあるが、何かと波風が立つ。

そこで、子供議会ならば当たり障りが無かろうと、ひょこたんは考えた。

グスマンという子供からは、「何故そんなものを開かねばならないのか?」という意見が返ってきた。

ひょこたんは、人参を追いかけている人たちの悲惨な末路を説明し、子供たちに協力を求めた。


ひょこたん
「……という訳で、最後は死んでも死に切れずに、吸血鬼になってしまうこともあるのよ。
大人たちに解決できない問題は、子供がなんとかして解決しなければ。」


分かりにくい話だけに、子供たちのやる気も今一つだったが、町に子供議会の要求をすることとなった。


ひょこたんのもとへ集まってくる子供の中では、ウーゴ・トルーガという者が最も高い能力を身につけている。

初めは子供っぽい感じだったが、成長するにつれて高い霊格を現すようになった。



月曜日の午後になると、ひょこたんはまた遺跡へ入った。

翻訳辞典を使って、粘土板の解読に挑戦しようというのである。

辞典のおかげで言葉は分かるが、文法は未知の領域だ。

しかし粘土板に書かれた文章は、主語、目的語、動詞の順に並んでいるらしく、普段使っている言葉に似ていた。


正確な意味は分からないが、文明の大崩壊をもたらしたのは呪いだという文章を見つけた。

それは西暦にして3000年代に最初に発生し、15000年代にはとどめとなるものが発生して、先住民族をほぼ全滅させたようである。

“イジブジェン”“ソガル”“ムミイ”などという謎の言葉とともに綴られている。

その横にはモザイク状の絵が描かれていた。

なんとかして、後からやってくる者たちに警告を与えようという苦心の跡が見られる。

その絵は鳥か蝶のような体に、人間の女性の頭がついているという奇妙なものだった。


つづく


続『ひょこたんの冒険』その21


ひょこたんは、またアンフェルメの井戸にやって来ていた。
井戸の側には、演劇に使う仮面が一つ作られている。


ひょこたん
「なかなか立派な仮面が出来ているじゃない。
どんな話に使うの?」


アンフェルメ
「『死霊の阿波踊り』というおバカな話よ。
ある男が阿波踊りに行ったら、死んだ妻も踊りに来ていた。
男は妻に声を掛けるが、何故か妻は猛烈に怒っている。
早く一流のかんざし職人になれと言う。
そこで、男はひたすら職人修行に打ち込み、妻にかんざしを贈る。」


ひょこたん
「うーん。
何と申して良いのやら。
まあ創作劇も楽しいかもね。」


アンフェルメ
「それよりも、あなた子供議会なんて開いて何をするつもり?」


ひょこたん
「人参の追いかけを止めさせようと思ってね。」


アンフェルメ
「あなたが行ったと言う、過去の世界にもあんな人たちはいた?」


ひょこたん
「過去の世界の方が、お金は猛威を振るっていたわ。
人参を追いかけている人々と同じように、魂を奪われている人々がいた。
それだけでなく、お金は人間を取り込んで経済組織体をつくっていたわ。
お金は人間を取り込んで、道路を造り、工場を建て、機械を増殖させる。」


アンフェルメ
「ほとんど化け物だわそれ。」


ひょこたん
「お金というよりは、物神とでも言うべきかも。
そして、物神に導かれた人々が最後に連れて行かれるのは戦争。
だけど古老の話だと、お金は元々嫁に出されるお姫様だったと言うわね。」


アンフェルメ
「お金の正体は女性だということ?」


ひょこたん
「そう考えても良いと思うけれど、父親が娘を嫁がせるという二人の関係が、結晶化したのがお金ということね。
娘を毒饅頭として、呪物として婿に贈る行為。
結局これは、女を道具として或いは生け贄として用いる文化なのよ。」


アンフェルメ
「女性の顔がどうとか、体重がどうとか、悩まなければならなくなったのも、お金のせいだったのか。」


ひょこたん
「人参を追いかけて走っている人たちも、物神の中に閉じ込められた人たちなの。
衰退期の遺物を調べて分かったのだけれど、あなたの言う通りあれは元々どこかのお祭りだったみたい。
馬と人間が一緒になって人参を追いかけるという、危険だけど遊び心のあるものだった。
でも、それはいつしか人間を洗脳する方法として使われるようになる。
技術力の低下によって、それまで使っていた洗脳装置が作れなくなったから。
ちなみに洗脳は、当初は露骨に洗脳と言わず、日勤教育と言われていた。」


アンフェルメ
「産業社会が華やかだった頃は、洗脳にも意味があったかも知れないけど、今や何の意味が有るわけ?」


ひょこたん
「半ば惰性で続いてきた伝統文化でしょうね。
でも病院の医師たちにとっては無意味ではないわ。
患者を恒常的に供給し続けてくれる。
また、この町の人々にとっても、一種の生け贄としての効果がある。」


アンフェルメ
「何にせよ、男達てのはどうして馬鹿な文化ばかり発明するんだろ?」


ひょこたん
「文化を発明する力なんてありゃしませんわ。
ただ惰性に従って生きているだけ。
新しい世界を創造するのは私達かもよ。」


アンフェルメ
「ようし、それじゃあやる気出して頑張ろうかな、死霊の阿波踊り。」


つづく



続『ひょこたんの冒険』その22


アンフェルメの初公演は、小さな空き地で行われた。

演劇自体がこの町では初めてのことである。

珍しいもの見たさに、数十人の人が集まった。

内容が『死霊の阿波踊り』だけに、観客の反応も今一つだったが、アンフェルメには大きな第一歩となった。


一方、ひょこたんの仕掛けた子供議会は、集まってみると、ひょこたん門下の子供が多数を占めた。

人参を追いかけさせることを禁止する法案を決議するが、問題はニュータウン側がどう扱うかである。

人参の追いかけは、町にとっても何らメリットの無いデカダン文化となっている。

町の方も、子供たちの意見を尊重するという返答をしてきた。

ところが、病院の医者たちも黙ってはいなかった。

町に圧力をかけると、前言を撤回させてしまう。

ひょこたんが次に打った手は、エビクイ人に病院を包囲させることだった。

政治に武力を用いるべきではないが、相手によってはこれも必要だと判断した。

一度他人を食い物にする味を覚えてしまった人間は、もはやその味を忘れることなどできないからだ。

これは、ひょこたんが過去の世界から得た教訓だった。

エビクイ人はニュータウンに軍隊を送り、三度に亘って病院を包囲した。

医者たちが、もう町に圧力はかけないと確約したため、エビクイ軍は武威を示しただけで帰っていった。


数日後、ニュータウンで人参を追う人はいなくなった。

それは、町が呪いから解放された瞬間であった。


その後ひょこたんは、しばらくエビ漁に出ることになる。

エビクイ人に、エビ3000フィロゾーマを約束したためである。




ひょこたんの冒険は懲りずに第三シーズンも構想中です。
 

スタートラック(1)(2)(3)

STAR TRUCK(1)


宇宙。

それは人類最後のゴミ捨て場。

これは、廃棄寸前のトラックに、かっぱらってきた宇宙船のエンジンを取り付け、未知の文明を求めて人類未踏の領域を勇敢に後悔した物語である。




恒星日誌、副長ライケル記す。

宇宙プテラノドンの攻撃により、船体の損傷が激しくなったため、我々はオバカ三号星に立ち寄っている。

艦長は呑気にも、宇宙マグロを釣りに行ってしまった。

まったく、年寄りは早く引退すれば良いものを…

コンピューター、上の行を削除。


この星では、近年誘拐事件が相次いでいる。

被害に遭っているのはヤマトという民族である。

やっているのは、パクレ原人という原始的な種族のようだ。

連中は誘拐だけでなく、「クレクレ!」などと言っては何でも物を持っていってしまう。

まったく手に負えない連中だ。


私は、技術者のジョデイと保安部員のウォルフとともに地上に降りた。



ライケル
「ジョデイ、こんな所で部品は揃うのかい?」


ジョデイ
「ここはバクレ原人の村ですよ。
間違って転送されたんだ。」


ウォルフ
「おや、あの機械は何でしょう?」


ジョデイ
「こ、これは“ヨウツベ”という高価な機械だ。
これで音楽でも映画でもパクルことができる。
しかし、よく買う金を持っていたな。」


ライケル
「連中は偽札を造っているという噂がある。
そのために、印刷技術者も誘拐したんだとか。」


つづく


STAR TRUCK(2)


恒星日誌、副長ライケル記す。

我々は、パクレ原人の村でヨウツベという機械を発見した。

それには、スタートレックシリーズもロードされており、我々はついつい夢中で見てしまった。



ジョデイ
「副長、私は修理用の部品を探しに行ってきます。
まあ、村には無いと思いますけどね。
しかし、こうしていても仕方がありません。」


ライケル
「すまんな、すっかりはまってしまった。」


ウォルフ
「副長、次はこれ見ましょう。
“カーンvsゴリコング帝国”。」


ライケル
「いや、“美白の女王ダータvs改造人間ロキュータス”の方が面白そうだぞ。」



村を歩き回っていたジョデイは、やはりと言うかなんと言うか、パクレ原人の三人組(ハンゴ、グン、ニコ)に捕まってしまった。


ハンゴ
「お前は入港している船の技術者だな?」


ジョデイ
「たからどうしたと言うんだ。
誘拐でもするか?」


グン
「お前には、転送装置を造ってもらいたい。」


ニコ
「転送装置を手に入れて、チタマ星を侵略するだがや~!!」


ジョデイ
「チタマ星に何があると言うんだ?」


ハンゴ
「チタマ星には、俺たちの好物のウイロウがデラたくさんあるがや。」


グン
「どえりゃー美味えがね。」


つづく



STAR TRUCK(3)


恒星日誌、艦長ピカット記す。

私は20mを超える宇宙マグロを釣り上げて帰艦した。

まだまだ若い者には負けられん。

いや、コンピューター、上の行を削除。

ん??

削除できないぞ。

どうやら船体の損傷は、コンピューターにまで及んだようだ。



ダータ
「大変です艦長。
副長を含む三名が行方不明となりました。」


ピカット
「転送の痕跡をたどれば、すぐに見つかるだろう。
連中のことだ、どうせ映画でも見ているんだ。
ところでダータ少佐、暫くコンピューターを肩代わりしてもらえないか。」


ダータ
「こんなボロいトラックに接続されて、体が壊れないか心配ですが。
仕方ありませんね。」


ピカット
「トラックではない。
宇宙船だ。」



恒星日誌、補足。

宇宙マグロは、サバの腐ったような味がして食べられたものではなかった。

20mを超える巨体を、どう処分すればよいか困っている。

ライケルとウォルフはすぐに発見できたが、パクレ原人に捕まったジョデイは心配だった。

しかしジョデイは、自分で転送装置を造ってひょっこり帰ってきた。


ピカット
「無事だったかジョデイ。」


ジョデイ
「はい、なんとか。
パクレ原人たちは、ヤマトの刑務所に転送しておきました。」


ライケル
「それはお手柄だったなジョデイ。
連中も頭を冷やすだろう。」


ピカット
「しかし、ヤマトは死刑というプリミティブな制度を持っている。
へたをすると命を奪われかねない。」


ライケル
「でも、連中を生かしたところで、また誘拐事件を起こすだけです。」


ピカット
「パクレ原人にとっては、これが我々とのファーストコンタクトだ。
連中は執念深く、いつまでも恨みを忘れないと言われている。
最初の出会いがこれでは、連中は今後、文明人を信用しなくなるだろう。
バクレ原人は今、進化の過程にある。
我々とて、進化の過程においては、様々な好ましくない行為を行ってきた。」


ライケル
「わかりました艦長。
オーブライアン、見つけ次第パクレ原人三名を回収しろ。
直後に村へ転送。」


オーブライアン
「了解。
転送します。」



ピカット
「ところで葬儀班、宇宙葬の準備は整ったか?」


カトー
「準備OK。」


ピカット
「ては、マグロを放出。
乗員は皆マグロに敬礼!」


宇宙マグロはシューターから放出されて闇に消えていった。


宇宙…

そこは人類最後のゴミ捨て場。


FIN


誰も読んでいないとは思うけど、ちょっぴり休眠するかも。
夏休み頃には完全復旧するつもり。

 

狐怪奇譚

狐怪奇譚(前編)


私は珍しい薬草を探しに、人里離れた山奥に入っていた。

たった一人で山に入るのは少し怖い。

こんな時は、自我のスイッチを切るようにする。

そうすると、自我のエコー(反響)とでも言うべき、悟るの化け物に会わずにすむ。


歩き回って疲れた私は、一休みしようかと場所を探した。

そんな時、目に入ったのは「飯屋」という看板だった。

なぜこんな所に?

不審に思ったけれど、試しに入ってみた。


中には十四、五歳に見える少女が一人でおり、「握り飯ですね」と声をかけてきた。

握り飯しか無いようで、私はウンもスンも無く座った。

少女は、赤い柄の入った白い装束姿で、飯を握った。

はて?

なぜこんな山奥に、少女か一人で飯屋を経営しているのか?

もしや狐?

あるいは、ひょっとすると妖怪なのでは?

少し怖くなってきたが、今更逃げる訳にもいかない。

握り飯は別に不味くもなく、それなりに美味かった。


握る作業が終わると、少女は外に出て、木に登り始めた。

私は窓からそれを見つめた。

大きな枝まで登ると、少女は隣の木の枝まで五メートル程飛んでみせた。

「え? 何だ今のは?」と思った私は、外へ出て少女に尋ねた。

「何してるの?」

「空を飛ぶ練習」とだけ少女は答えた。

つづく

狐怪奇譚(後編)


家に帰った私は、近いうちにあの飯屋に行ってみたいと思った。

興味もあったし、なによりも代金を払い忘れてしまったのだ。


しかし、こちらから出向くまでもなく、少女は夢の中にやって来た。

家の屋根から、隣の家の屋根まで飛んで見せて、私にもやってみろと言う。

恐る恐る飛んだ私は、自分の体が浮いたことに驚いた。

しかし、力(りき)むとどんどん降下した。

そこで目が覚めてしまった。


私は、夜眠るのが楽しみになっていった。

毎晩のように少女は現れ、私も飛ぶことに慣れていった。


ある時は、二人で暗い夜の街まで飛んだ。

街にあるビルの窓は真っ暗で、誰も住んでいないようだった。


また、何者かに追いかけられたこともあった。

私たちは、屋根から屋根へと飛び移り、逃げ回った。


そしてある日、もうお別れだと少女は切り出した。

出発の日が来たという。

私には良く理解できない話だが、悲しかった。



朝起きると、近所が騒がしかった。

津波で流されていった少女が、水路に流れ着いたという。

少女は案外近い所にいたのだ。


私は見に行かなかった。

少女との思い出の方を大事にしたかったのだ。


しかし、もしかすると私に後を頼んだのかも知れないと思い、遅れて見に行った。


たが、もはや少女は引きあげられて、いなかった。

そのかわり、近くにキツネが浮いているのを発見した。

おそらくは、少女とキツネは協力し合っていたに違いない。


私はキツネを引きあげて埋葬することにより、握り飯の代金にかえた。


終わり


上越市の地すべりは止まらず。
ホクホク線の電車も上越市には停まらず?
 

出撃!! BL謙信(第三部)

出撃!! BL謙信(十一)川中島決戦その5

山本勘助が討ち取ったのは、油ゲンシンという謙信の影武者だった。

「謙信を討ち取ったぞー」という叫びに、首を取り返そうとする兵や横取りしようとする兵が殺到し、一瞬信玄の本陣がガラ空きとなった。

柿崎景家はそれを見逃さなかった。

信玄の本陣に突入すると、床机に腰掛けた武将の首に長刀を振り下ろした。

「ピピピピピピピピ…」床机に腰掛けた武将は異様な音声を発して、白い液体を吐き出した。


柿崎
「なんじゃこりゃぁあ~!!」


本陣の中にいた内藤昌豊が柿崎の馬の尻を突き刺したため、馬はあらぬ方向へ走りだして柿崎は去った。


穴山信君
「たたりじゃ~!」


信玄
「祟りなどではない。
これは南蛮渡来のカラクリ人形というものじゃ。
しかし、南蛮物の寿命はこうも短いものか…」


ようやく馬の制御を取り戻した柿崎は、高坂昌信を探す斉藤朝信に出会った。


斉藤
「昌信はどこじゃ~!
出てこーい。」


柿崎
「人が命がけで戦っている時に、一体何してんねん?」


斉藤
「おやかた様が、戦は柿崎と村上に任せとけと仰るので、わし等は昌信を探しておる。」


柿崎
「道理で味方が来ないと思ったよ。」


斉藤
「わし等も最初は、車懸かりの陣形だとか言って真面目にやってたんだ。
でも皆グルグル目が回ってしまって、これじゃ戦にならないなとおやかた様が言うもので。
それで高坂昌信探しに切り替えた。」


柿崎
「もう戦は終わりだ。
武田方の兵が増えて、支え切れなくなった。
俺はもう帰るぞ。」


この頃から、妻女山に行っていた別働隊が武田方に加わり、挟み撃ち攻撃を開始していた。

武田の精鋭、赤備えを着けた飯富虎昌と、その弟昌景が騎馬突撃を始め、謙信たちは一方的に逃げる展開となった。


謙信
「昌信はどこじゃ~!
出て来ぉーい!」


宇佐美
「おやかた様、それどころではありませんぞ。
お味方は総崩れとなって敗走している様子。
ここはもう退くべきです。」


謙信
「長蛇を逸したか。
無念だ。」


犀川を渡り、やむなく謙信は引き揚げた。

そのころ直江景綱を中心とする後発部隊が川中島に到着し、敗走する味方の退路を開く役を担った。

一方、弟を失って怒りに燃える信玄は犀川まで追撃を試みたが、甘粕景持の鉄砲隊の待ち伏せに遭い、撤退した。


この日、武田方は四千人、越後勢は三千人の死者を出したと伝えられる。

越後勢が皆引き揚げると、直江隊は戦死者の遺体回収などを行った。

信玄は、それには攻撃を加えなかったという。

つづく



出撃!! BL謙信(十二)山賊の歌


越後へ逃げる将兵たちには、もはや何の統率もなく、散り散りになってしまった。

謙信の馬周りにいたのは小島弥太郎だけである。

その弥太郎も、真田の草の者に襲われて大量出血していた。

戦場を離れても決して安全ではなく、帰りの道中にも忍者が潜んでいたのである。


槍で尻を突き刺そうとする穴掘釜之介や、見上げる程に巨大な三好がんばり入道と三好見越し入道など、同じ人間とは思えない連中が次々と謙信を襲った。

弥太郎はその度に謙信を庇(かば)って、怪我をしてしまった。



空には月が懸かり、ちょうど信濃と越後の国境あたりに来た時、どこからか山賊の歌が聞こえてきた。

「雨が降れば 小川ができ 月が出れば おいらの世界

やっほう やほほほう 寂しい所」


山賊A
「お頭、いいのが来ましたぜ。
馬を連れてるようだし、立派な太刀を持ってるに違えねぇ。」


お頭
「焦らずに、もっと引きつけてからやるんだ。」



謙信も、まずい気配を感じていて、今度襲われたら最後だと思っていた。

しかし、馬に乗る謙信と弥太郎が近づくと、山賊たちの目には異様なものが映った。

謙信の周りを囲うように毘沙門天、帝釈天、閻魔、水龍などが浮遊しており、到底この世の光景とは思えなかった。



お頭
「あれはきっと化け物の類だ。
決して手を出すなよ。
他にもまだ来るはずだ。」


山賊B
「へい。
なんだか背筋が寒くなって、死んだ後のことが心配になっちまった。」


お頭
「馬鹿野郎、死んだ後なんて何もねえ。
俺達山賊は、山犬の餌になるだけよ。」



神仏の加護があったものか、謙信も弥太郎も無事に春日山に帰り着いた。


つづく





出撃!! BL謙信(十三)ショタコンブーム到来



戦いの後に謙信を悩ませたのは、恩賞を出せないことだった。

小田原出兵にしろ、川中島の戦いにしろ、なんら領土を得た訳ではなく、活躍した将兵に分け与える物は何も無かった。

北条高広は上野からやって来ると、鎌倉幕府の故事を挙げて恩賞を迫った。



北条
「鎌倉幕府は、竹崎季長のように妙な絵を描かせて持ってきた者でさえ、根気良く交渉して恩賞を出しております。
そうした信頼関係があればこそ、味方が不利になっても御家人は裏切らなかったのですぞ。」


謙信
「恩賞は、いずれ資金繰りが良くなってから少しずつ出すつもりだ。
今はこれで我慢してくれ。」


謙信はそう言うと、自らの指先を切り裂いて血を流し、それで文字を書いて感状とした。

北条高広は決して満足した訳ではなかったが、黙って帰った。

他の武将にも、同様に指を切って感状を書いたため、謙信は十本の指に布を巻くことになった。


そして暫くの間、葬儀に出る日々が続いた。



そんな日々も過ぎた頃、信長から妙な贈り物が届いた。

立派な屏風絵とともに届いたのは、「太刀持ち小姓の飼い方」という入門書である。

小さい男の子を貰ってきて小姓として育て、ゆくゆくは城持ち武将になるまでその成長を楽しむという、妙な文化が尾張では横行していた。


これを都会の文化と思い込んだ謙信は、早速、与六などという子供を連れてきて育て始めた。

家臣も真似をして、同じことをし始めたため、春日山近辺に空前のショタコンブームが到来した。

さらに信長は、“自分の娘”と称して織田マリという女性も贈ってきた。

信長の説明によれば、自分と南蛮人の女性との間にできた娘だと言う。

しかし、どう見ても、金色のスプレーを吹き付けて金髪にしている村娘のようにしか見えなかった。

送り返すと、かわいそうなことになりそうなので、暫く飯炊き女として養うことにした。



一方、直江津の近くに御館を構えた上杉憲政は、茶会を開いたり連歌などをして楽しんだ。

そのため、おじゃる言葉を話す文化人が多く来訪し、「今川氏真氏来る!」などの看板が多数立てられている。

こちらはこちらで、また別の文化圏を形成していたのである。


両者とも、信長と衝突するまでの、わずかな平和の時を楽しんだ。


つづく

出撃!! BL謙信(十四)敵に塩を送る


謙信とまともに衝突してしまい、これ以上北に進むのは無理と判断した信玄は、南へ進んで今川領を襲った。

しかし今川の同盟者北条氏康が妨害して、南進は果たせなかった。

北、東、南に敵を抱えた武田領では、塩などの必需品が欠乏するようになる。


謙信
「川中島の遺体を回収する際、信玄が攻撃しなかったというのは本当なのか?」


直江
「真の話です。」


謙信
「父を追放したり、少年少女や仏像にまで手を出す極悪非道なおやじと聞いていたが、案外大人物だったのかも知れぬ。
塩が不足しているそうだから、甲府に塩を送ってやってくれ。」


直江
「そんな、敵に塩を送るような真似をして大丈夫ですか?」


謙信
「なに、信玄は猪肉ばかり食べていて高血圧になっていると聞く。
塩は最強の刺客となる。」



一週間後、甲府に大量の塩が送られてきた。



信玄「謙信が大量の塩を送ってきたとか。」


馬場
「まさか毒ではないでしょうな。」


信玄
「毒にしては大量過ぎる。
民百姓にも配ってやれということだろう。
お礼に甲州産のぶどう酒を送ってやってくれ。
最上級の物をな。」


馬場
「一体何の気を起こされましたので?」


信玄
「英雄にしか分からない、英雄の気質というものがあるのだ。
謙信は無類の酒好きと聞く。
極上の物を送ってやればガブ飲みするに違いない。
ふっふっふっ。」


一週間後、「ラブラブ謙ちゃん」という宛名で、春日山に大量のぶどう酒が送られた。

信玄はその後、今川領を獲得し、さらに西進して徳川家康を三方ヶ原に破った。

しかし余程興奮したのか、直後に倒れてしまう。

甲府まで戻ろうとしたが果たせず、信州で病没した。

享年53。

信玄は軍用道路をよく整備したため、道路族の祖と言われる。

子孫にも、金丸信のような道路族が現れている。

また、身寄りのない子供には奨学金を与えたため、“足長殿”などとも呼ばれた。


つづく


甲州産ワインが作られるようになったのは、明治時代になってからのようです。
しかし甲州ぶどう自体は、かなり古くから注目されていたみたいです。



出撃!! BL謙信(十五)跡継ぎ誕生


謙信は唐沢山城の佐野昌綱を攻めたり、越中一向一揆と戦う日々が続いていた。

佐野昌綱は、小田原出兵の際に北条方から寝返った武将である。

しかし謙信が引き上げると、また北条方へ付いてしまった。

その後、「寂しかったので、かまって欲しかった」「暇で何もすることがないので」などの理由で何度も反旗を翻す。

謙信はその度に唐沢山城を攻め、毎回許してしまうので、同じことの繰り返しだった。


そんな中、奇妙な事件が起こる。

織田マリの出産である。

ある朝、織田マリが飯を炊くために起きたところ、ふとんの中に赤子が寝ていたという。

父親が誰か分からず、仕方がないので、謙信の姉の仙桃院が生んだということにして育てることになった。

後の顕景である。

与六も顕景の出生の秘密を知っており、顕景は生涯与六に頭が上がらなかったと言われる。

とは言え、顕景の周りには与六を筆頭に、前田慶次や真田幸村など愉快な仲間が集まるようになる。


その織田マリを送ってきた織田信長は、信玄の死後は謙信を最大の脅威と見るようになる。

反一向一揆の立場から友好を保っていた両者ではあったが、信長が北陸で大量虐殺を行ったことで、謙信の心は離れていった。

両者の直接対決は、能登七尾城をめぐる戦いの中で起こる。

謙信が能登七尾城を攻めていた際、城内の長さんが信長に援軍を頼んだため、信長が柴田勝家らを派兵したというものである。


勝家は領国の越前から七尾城に向かったが、既に城は落ちていた。

両軍は手取川付近で遭遇する。


越後勢足軽A
「おい、聞いたか?
近江で明智光秀が謀反したってよ。」


羽柴勢足軽B
「ええっ!!
聞いてないよー!
まじっスかー?」


この情報はただちに秀吉に報告された。


羽柴秀吉
「柴田殿、光秀が近江で謀反したようです。
私は帰りますので後はよろしく。」


柴田
「こら待て、勝手に帰るんじゃない!」


秀吉の撤退で兵士の士気が下がり、勝家もやむなく退却を命じる。

謙信は追撃して大いに織田勢を破り、春日山に凱旋した。

しかし、信玄の送ったぶどう酒がついに効果を現したのか、厠で倒れ意識不明となる。


直江
「おやかた様、お気を確かに。
後継は誰になさいます?
本当は、おやかた様が顕景殿の父なのではないですか?」


謙信
「そんなはずないだろう。」


直江
「なぜです?」


謙信
「なぜって、私が顕景のママだからよ。
んがっ。」


享年49歳。
その正体と行動は謎のままである。





どこまでも訳の分からない話ですね。
歴史は正しい資料から学びましょう。
 

出撃!! BL謙信(第二部)

出撃!! BL謙信(六) 関東出撃


雪解けとともに、謙信は大軍を連れて上野(群馬県)にやって来た。

大軍を見た北条高広は謙信に降伏し、北条攻めの先鋒を買ってでる。

謙信はこれを許した。

そうこうしている間にも、かつて上杉憲政に仕えていた武将たちが続々と馳せ参じた。

さらなる大軍となった謙信たちは、北条方の城を落としながら南下し、小田原城に迫った。


憲政
「謙信殿の配下は、勇猛な武将が揃っていて羨ましい限りじゃ。
先陣を務めている本庄繁長殿や北条高広殿、あんな武将が一人でもまろに仕えておればなぁ。」


謙信
「いや、連中が前方にいるのは、はっきり言って、後ろにいると怖いからというだけです。
後ろから矢が飛んできたり、槍が出てきたりすると困りますから。」


憲政と謙信は、配下の者が小田原城を包囲している間に鶴岡八幡宮へ向かった。

そこで、関東管領就任式を行ったのである。

上杉謙信はBL謙信と名を改め、関東の秩序を守る役割を憲政から引き継いだ。

関東の諸将に号令する立場になった謙信ではあったが、小田原城は難攻不落の城だった。

謙信はあっさりと兵を退いた。

ここで大きな犠牲を払って城を得るよりも、兵力を温存して常に出動できる態勢を保つ方が得策と考えた。

また、城を包囲して兵糧攻めをしているようでも、実際に兵糧攻めをされていたのは謙信たちの方であった。

越後を出発した兵たちにとって、小田原はあまりにも遠かったのである。


つづく


出撃!! BL謙信(七)川中島決戦その1


春日山へ帰ってみると、小木ママや、お松とぴい子など勘違いしている連中が押しかけて来ていた。


小木ママ
「戦に行ったのに、あまり殺さなかったんですって?
いいのよ。いいのよ。
そういう優しい気持ちが子供の心を育てるのよ。」


謙信
「別に子供の心を育てるために戦してる訳じゃないし。」


ぴい子
「ちょっと!
関東管領とかになったにしては、服がダサイわよ。
まるで坊主が袈裟着てるみたいじゃない?」


謙信
「坊主が袈裟着てるんです。
御仏の心を日本中に及ぼすことが私の使命。
かぁぁああっ!」


謙信が一喝すると、智謀の低いオカマたちは吹き飛ばされていった。

そこへ、留守居役の直江景綱が出てきた。


直江
「一大事ですぞ、おやかた様。
軒猿の報告によると、信玄が甲府を出発して北上しているとのこと。
今回は木曽や小諸など、田舎の方からも兵を集めているようです。」


謙信
「やはりそんな事だったか。
関東遠征に行かなかった将兵をすぐに集めてくれ。」


信玄に追われて越後に来ていた村上や小笠原、柿崎、斉藤、宇佐美などが第一陣として出発した。

目指すは最前線の飯山城である。

謙信たちが飯山城に入った頃、信玄もまた海津城に到着して「御旗・楯無も御照覧あれ」を唱えていた。

つづく

出撃!! BL謙信(八)川中島決戦その2

飯山城に入った謙信は、直ちに行動を開始した。

「後発部隊と合流してから、作戦を開始すべき」という意見もあったが、海津城に向かって南進し、さらに海津城を通り過ぎて妻女山へ向かった。

行軍中の軍団は、側面からの攻撃に弱い。

城の脇を横切れば、信玄は必ず攻撃してくると思っていた謙信だったが、当てがはずれてしまった。

一行はそのまま妻女山に登り、そこに布陣した。


宇佐美
「信玄は勇猛な性格と聞いていましたが、妙に慎重ですな。
それと、ここは敵中深く入り過ぎてはいませんか?
後発の部隊と連絡がつかなくなるのでは?」


謙信
「山の上は視界が利く上に、弓を射ても有利になる。
敵が近づいたら、逆落としに突撃を食らわせてやれば良い。」


村上
「なんとしても信玄めを討ち取ってやる。」


謙信
「信玄の寵愛している美童に、高坂昌信というのがいるらしい。
昌信を捕まえて、信玄をぎゃふんと言わせてみたいものだ。」


宇佐美
「ま、まさか、おやかた様、二次使用するつもりではないでしょうな。」


謙信
「そ、そ、そんな訳ないだろうが!!
しかし、昌信は軍略の才もあると聞いている。
一度語り合ってみたいものだ。」


斉藤朝信
「昌信よりも、俺としては、名古屋山三郎の方が欲しいなあ。」


新発田重家
「俺の夢はね、趙雲子龍を配下にすることなんだ。
で、前田慶次と一騎打ちさせてみたいねえ。」


柿崎景家
「馬鹿かお前ら、いい加減にしろ!!」


斉藤朝信
「柿崎殿に馬鹿って言われてもなぁ。」


新発田重家
「んだんだ。」


一方、海津城では…


真田幸隆
「連中は山に登ってしまいました。
街亭の馬謖の故事を知らないのでしょうか。」


信繁(信玄の弟)
「案外連中はアホが揃っているのでは?」


信玄
「無謀には違いないが、侮ってはならない。
あれは、我が身を捨ててでも、わしの首を取るつもりの作戦に違いない。
兵糧が無くなれば自然に山を降りる。
その時こそ、完膚なきまでに叩きのめしてくれようぞ。」


つづく


出撃!! BL謙信(九)川中島決戦その3


妻女山に布陣した謙信たちは、三週間もそこに留まることになった。

兵糧は一週間分程しかなく、少しずつ食べている。

しかし、信玄は全く動く様子がない。



宇佐美
「動かざること山の如しとは言いますが、弱りましたな。
このままでは士気が低下し、最後は体が動かなくなりますぞ。」


謙信
「案ずるな。
御仏が我らを助けようとするならば、どんな窮地に居ようとも必ず助かる。」


謙信は、毘沙門天祈願セットを広げて座禅を組んだ。


宇佐美
「ようし、それならば私も。
エロヒムよ、越佐イモよ、我は米を求め訴えたり。」


斉藤
「今のは西洋式ですか?」


宇佐美
「そうだ。
天に米を降らせてくれるように頼んだ。」


柿崎
「ああ、もうだめだ。
きっと俺は、山の上で飢えて死んだバカ武将として、後世に名を残すんだ。」



一方、海津城の信玄たちは…


信玄「妻女山の兵糧を炊く煙は、変わりないか?」


真田幸隆
「以前と変わりなく出ておりますが、おそらく偽装かと。
もう兵糧は尽きたはずです。」


山本勘助
「謙信の兵は一万足らず、我が軍は二万を超えております。
このまま城に篭っていたのでは、後世に臆病者の名を残します。」


飯富虎昌
「我らに妻女山を攻撃をお許し下されば、必ずや謙信を討ち取ってみせます。
仮に失敗しても、我らだけの犠牲で済むことです。」


山本勘助
「それならば、こういうのはどうでしょう。
軍団を二つに分け、一つを囮部隊とします。
囮部隊は夜の闇の間に移動して、背後から妻女山に襲い掛かります。
本隊は少し遅れて出発し、囮部隊の反対側から、謙信の軍を挟み撃ちにします。
いかに謙信とて、二方向の敵と戦うことは困難でしょう。」


信玄「他に囮部隊に加わる勇敢な者はいないか?」


高坂昌信
「一度謙信の顔を、見てやりたいと思っておりました。」


飯富昌景
「兄が死にに行くのであれば、私も。」


信玄
「無謀なことをさせないために、信房殿(馬場)も加えよう。」


夜になると囮部隊は出発した。


夕方の謙信の陣営では…


宇佐美
「海津城の炊飯の煙、いつもより盛んに出ています。」


謙信
「いよいよ信玄も出てくるか。
全軍に、食べ物を十分取るように伝えよ。
明日の未明にはここを発つ。」


この日は早く眠り、深夜に謙信は目を覚ました。

川中島付近には霧がかかり、弓や鉄砲が使いにくい好都合な状態となった。


謙信
「見たか毘沙門天の力。
この戦、勝ったぞ。」


宇佐美
「いや、エロヒムと越佐イモのおかげでしょう。」



柿崎隊を先鋒として一行は山を降り、千曲川を渡って川中島に入った。

つづく


出撃!! BL謙信(十)川中島決戦その4


霧のかかった川中島で、両軍は接触した。

隊列を組んで行軍中の信玄は、不意を突かれた形となった。

柿崎隊の騎馬突撃に最初にさらされたのは、諸角虎定である。

信玄の大叔父と伝わる諸角虎定は、齢80を超え、病を押しての出陣だった。

柿崎隊の大食い番長こと米山田太郎や、上下浜のぷっちょ番長こと坂田池源五郎、はっさき地蔵番長などが諸角隊に襲い掛かり、次々と血祭りに上げていった。

そして諸角は最初の大将首を献上してしまう。


敵に中央突破の虞があると見た信繁(信玄の弟)は、中央寄りに守備位置を変えて督戦した。


信繁
「決して退くな!!
ここが我慢のしどころぞ!
もうすぐ別働隊が戻ってくる!」


別働隊とは、妻女山に囮部隊として派遣された馬場信房や飯富虎昌などの精鋭部隊のことである。


一方、信玄は一時その場に陣を張り、影武者を床机に腰掛けさせ、自分は近くで鼓を打っていた。

信玄の打つ鼓には、兵士の士気を高める効果があったという。

これを信玄つづみと言う。


暫くして、伝令が陣中に駆け込んできた。


伝令A
「諸角豊後守様、左馬介信繁様、お討ち死に…」


信玄
「何?!
もう一度申してみよ。」


恐ろしい雰囲気を感じた伝令Aは、言葉が出なくなってしまった。


穴山信君
「たっ、たたりじゃあ~!
諏訪明神様の祟りじゃあ~!!」


信玄の怒りは穴山信君に向かって爆発した。


信玄
「このボケナス!!
なすの祟りが怖くて、なすの漬物が食えるか!!」


山本勘助
「こうなってしまったのも、すべてはこの勘助が不明のため。
足軽30人を、お貸しくだされば、謙信の首を取って参ります。
今生最後のお願い、なにとぞ…」


信玄
「許す。
なんとしても謙信の首を取って参れ。」



山本勘助は用兵も見事で、謙信らしき騎馬武者を見つけると、取り囲んで見事討ち取った。

しかし次の瞬間には、勘助自身にも複数の槍が突き刺さっていた。


山本勘助
「やったぞ。
これであの世へ行ってもなんとか面目が立つ。
んがっ」


つづく



暖かくなると、ダルさが出てくる今日このごろ。
 

出撃!! BL謙信(第一部)

今年は辰年ということで、上杉謙信が登場。
(注)BL色は薄いので、ノーマルな方も読めます。


(一)出会い

大体1553年頃、北信濃の大名だった村上義清が謙信の治める越後に逃げてきた。



義清
「たっ、助けちくり~!」


謙信
「血相変えて、どうされた?」


義清
「信玄のBL行為から逃げてきたのです。
信玄は仏像にまでBL行為を強要しておりますぞ。」


謙信
「うぬぬ許せん!
こうしてはいられない、善行寺の仏像を救出せねば。
弥太郎、直江を呼べ!
出陣の合図だ。」


義清
「ああ、お待ちください。
まだ申し上げることが…」


謙信
「それはまた次の機会に。」


謙信は信濃善行寺に駆けつけた。


善行寺のお坊さん
「一体何事ですか?」


謙信
「信玄がこの寺の仏像を狙っているのです。
奴の餌食になる前に、仏像を越後へ連行します。
それっ、仏像を運びだせ!」


善行寺のお坊さん
「そんな無茶苦茶な。」


謙信が去った後、信玄も善行寺にやって来た。


信玄
「どういうことだ?
美しい仏像はほとんど無いではないか。」


善行寺のお坊さん
「謙信公が連れて行きました。」


信玄
「なんと!
わしの行動を読んで先まわりしたと言うのか。
仕方ない、残っている仏像だけでも甲斐へ連行しろ。
騎馬隊は謙信を追撃じゃ。」


哀れ、仏像が一体も無くなった善行寺では、暫くの間みくみく人形が本尊だったという。

信玄たちが謙信を追いかけていくと、河を渡り終えた謙信が向こう岸に見えた。


信玄
「信房殿、あの謙信という若武者、なんとかして捕まえてみたいものだ。
ぬわっふわっふわっ。」


馬場
「もういい加減になさいませ。
諏訪の娘を連れてきた件も、家臣の不信を買いましたぞ。」


つづく


(二)得体の知れない家臣たち


謙信のいる春日山城に、柿崎城の柿崎景家が苦情を申し立てにきた。


柿崎
「おやかた様、柿崎の除雪をきちんとするように、役人たちに命じてもらえんでしょうか。
今の除雪のやり方は、ありゃ除雪なんてものじゃありません。
道路の片側に雪を押し付けていくだけです。
押し付けられた側の家では、除雪をしないと家の外に出られません。
そのため、雪をまた道路の方へ投げ返しているのが実情です。」


謙信
「仕方ないだろう。
道路に雪を戻さないように住民を指導しろ。」


柿崎
「それならば、せめて公平に押し付けてもらえんでしょうか。
今日は左に押し付けたら、明日は右にするとか。」


謙信
「そんな事、いちいち覚えていられる訳ないだろう。
昔からそうやってきたんだ。
伝統は変えられんよ。」


柿崎
「ほう、さすがは伝統と権威の上越市。
三和村への産業廃棄物の投棄も、昔からやってたのでは?」


謙信
「またそんな事を蒸し返すのか。
それは上越市とは関係がないと決着しただろう。
弥太郎、直江を呼べ。」


柿崎
「上越市がやったのではないとすると、一体誰がやったのです?」


謙信
「それはだな…
それは…
う…」


直江
「宇宙人がやりました。」


柿崎
「ほほう!
宇宙人が上越市のゴミを運ぶために遠い星からわざわざやって来て、ゴミを三和村まで運んでいってくれたと、そう仰るのか。
さすがは上越市だ。
そんな遠い星まで権威が及ぶとは!
もういい、馬鹿馬鹿しいから帰るわ。」


柿崎景家は馬で去った。


謙信
「何なんだあいつは?
謀反でも企てるのではないか。」


直江
「いえ、柿崎殿は元々ああいった性格なのです。
戦になれば役に立ちますから、大目に見るのがよろしいかと。
他にも殿を若造と軽く見て、信服しない者が多くいます。
上野の北条殿、阿賀北の本庄や新発田など、一筋縄ではいかない者が揃っているのです。」


謙信
「なんか嫌な気分になってきた。
暫く自分探しの旅にでも出ようかな。それとも、
いっそ坊主になって、屏風に上手な絵でも描いてみようか。」


つづく


出撃!! BL謙信(三)野尻湖レガッタの恐怖


虚無僧姿となって旅に出ていた謙信は、坂戸城(南魚沼)の辺りを歩いていた。

その坂戸城では、長尾政景が村上国清(義清の息子)相手にパワハラの最中であった。


政景
「元大名の息子ともなれば、それなりの小遣いは持っているだろう。
わしらにも、ちと御馳走してくれんかのう。」


国清
「それが…
命からがら逃げてきたもので、何も持っておりません。」


政景
「なんじゃとぉおお!
礼儀を知らぬ奴め。
そこへ正座しろ。
ふざけた事を言うと放置新聞の編集局に飛ばすぞ。
それとも、熊本市役所へ出向させてやろうか!!」


国清
「そ、そればかりはお許しを…」


宇佐美定満
「政景殿、もうその辺で止めておきなさいませ。
おやかた様に知れたら、どんなお仕置きを食らうか。」


政景
「おやかた様なんて、あんな者ただの飾りだよ。
変な宗教にハマってるし、時代錯誤だし。
越後を治められるのは、この政景だけよ。」


謙信
「また謀反か政景?」


虚無僧姿の謙信が、いつの間にか城内に入っていた。


政景
「おのれ曲者!
正体を現せ!」


謙信
「わしの声を聞き忘れたのか?」


政景
「はっ!
もしやお前は、松平健!」


謙信
「どこまでボケるつもりだ?
本当は腹を切れと言いたいところだが、野尻湖レガッタで宇佐美に勝ったら、許しても良いぞ。」


政景
「何だ?
レガッタって?」


謙信
「要は、手漕ぎ舟の競争よ。」


政景
「ふん、わしが宇佐美のような年寄りに負けるとでも?」


野尻湖レガッタは次の日に行われた。

長尾政景は宇佐美に対してリードしたものの、突如現れたジャノというUMAに襲われてしまう。

ジャノは長い鼻で政景を巻くと、そのまま湖に引きずり込んだ。


謙信
「な、何なんだありゃ?」


宇佐美
「ここは危険です。
早く逃げましょう。」


謙信と宇佐美は一目散に逃走した。


つづく


出撃!! BL謙信(四)国内統一の秘訣


柿崎景家は一人で海を見ていた。

晴れた日には、柿崎海岸から佐渡島が見える。

しかし、あいにく季節は冬で、物凄い高波が見えるだけである。

そこへ直江らしき人物が通りかかった。


直江
「柿崎殿ではないか。
こんな所で何をしておられる?」


柿崎
「ああ、ちょっとね。
俺を監視にでも来たんですかい?」


直江
「いや、ただ領地に帰る途中じゃ。」


柿崎
「なんだか憂鬱でね。
俺も自分探しの旅にでも出ようかなと思って。
なんかこのままだと、武田信玄が攻め込んできて、いよいよ俺たちも終わりみたいだし。
後世、バカ大名に仕えていたバカ武将の柿崎景家とか言われそうで…
きっと、知力10、政治力15とか、そんな評価になっちゃうんだろうな。」

(注)最大値は100です。


直江
「でも、柿崎殿には武勇があるではないか。
なぜ柿崎軍はそんなに強いのか、わしも秘訣を知りたいものだ。」


柿崎
「各地の中学校で番を張ってる奴に目を付けておいて、スカウトするんですよ。
そして、そういうやつらを柿崎高校に入れて、地獄の特訓をさせます。
さすがに番長クラスになると、骨のある奴が多い。
さらに、そういう奴らには子分がいますから、番長を頭として組を編成します。」


直江
「ふうん、そんな秘訣があったのか。」


直江は顔面SFXをベリベリと剥がすと、素顔を見せた。


柿崎
「ああっ!
おやかた様!」


謙信
「ふっふっふ。
自分探しの旅、出てみるのが良いぞ。
何かと批判する奴もいるらしいが、そういうのは頭がカチコチの奴だ。
いざという時は頼みにしておるぞ。
さらば!」


謙信は領内自分探しの旅を終えて、春日山に帰還した。


直江
「どこへ行ってらしたのです、おやかた様。
宇宙人にでも拉致されたのかと、皆心配しておりましたぞ。」


謙信
「宇宙人?
そんなものいる訳ないだろ!
ちょっと領内を視察してきただけよ。」


直江
「それで、何か収穫はありましたか?」


謙信
「各地の武将は様々な悩みや不満を抱えているようだ。
まずは、そうした声を聞いてやるのが肝心と心得た。」


つづく




出撃!! BL謙信(五)信玄の秘密兵器


話は続く。


直江
「いっそ信玄のように、戦を起こすことによって家臣をまとめるのはどうでしょう?
奪った領土を家臣に分け与えれば、忠誠度も上がります。」


謙信
「それは行けないよ。
それこそが、この乱世の原因だ。
家臣の忠誠を得るためには、戦をし続けなければならない。
わしは仏法をもって治めるのが良いと思うがどうだろう?」


直江
「仏法と言っても、色々ございます。
この越後は親鸞聖人の影響が強く、一向門徒が多くおります。
それ故、宗教を政治の中心に据えるのは、混乱の原因となり兼ねません。
それよりは、憲政殿の要請を受け容れて、関東管領となるのがよろしいのでは?」


謙信
「憲政殿の養子になったりしたら、上杉上杉謙信などという変な名前になってしまう。
わしは毘沙門天を中心にした政治がしたいのだ。
決めたぞ!
今日からBishamonten Love謙信と名乗るぞ。
略してBL謙信。」


直江
「そのようなことをすれば、はるな藍や楽(らく)しんご、ガバちゃんなど、勘違いしてる連中が続々とこの越後にやってくることになりましょう。
喜ぶのは信玄くらいのものです。」


突然外が騒がしくなり、何者かがやって来たようだ。


大熊
「いやぁ~皆さん、お元気でしたか。
大熊朝秀でこざいますよ。」


直江
「大熊殿は武田方に寝返ったと聞いてましたけど。」


大熊
「何を仰るか、私は先代のおやかた様の命により、武田方に潜入しておったのですぞ。
重大な情報を得たので、この通り帰って来ました。
その情報ですが、どうやら信玄は北信濃に海津城を築いて、越後への進出を目論んでいるようです。
同時に北条は、上野の北条(きたじょう)殿を調略して、武田との二面作戦を行う模様。」


謙信
「ようし、出陣の合図じゃ!」


直江
「この雪では、大軍を動かすのは困難です。
わが軍が春日山を出発すれば、信玄もまた甲府から出陣するでしょう。
それでいて、信玄の方が早く到着してしまう。」


謙信
「なぁあぜじゃ~!
どうしてなのじゃあ~!」


大熊
「ずばり、除雪力の差ですな。
越後の除雪の仕方は、ありゃ除雪なんてものじゃありません。
道路の左側に雪を押し付けて行くだけです。
でも信玄は違います。
信玄はビームサーベルというのを持っていて、雪を瞬時に溶かしてしまうのです。
そして、その溶けた雪の温泉に浸かったりしています。
それこそが信玄の隠し湯というものですぞ。」


直江、謙信
「嘘付け!!」


つづく


元少年大月被告の死刑が確定。
今回は本村氏側に賛同する意見がほとんどのようです。
確かに、卑劣な奴をぶちのめしてやりたいと誰もが思うところではある。
私としては、終身懲役刑を科して一生償わせるべきだと思うけど。
その方が本当はつらいし、本村氏にとっても良い結果を導くと思えるから。
と言うのも、いずれは本村氏も元少年を死刑に追い込んだことを後悔するに違いないからだ。
アホな人間がそういう境地に至ることはないのかも知れないが、おそらく本村氏はそこへたどり着くことと思う。
人間は誰でも過ちを犯すものであり、自分がそうならない自信があっても、親族がそうなったりするものである。
現に日本という国も、かつては中国人に人体実験を行ったり、惨殺したりしていたのである。

日本では何故か死刑肯定派が増える傾向にあるようだが、死刑を行っているのは北朝鮮や中国のような問答無用国ばかり。
また、ローマで剣奴に殺し合いをさせて見世物としていた如く、死刑も民衆を支配する道具として用いられてきたことに注意すべきだろう
 

 『ゾンビ考(最終回)』~失われた魂を求めて~

(最終回) 先生の反逆


強力な抗真菌薬の開発から一年が経ち、ゾンビも姿を消した。

新たに感染する者もいたが、治療と再教育によって社会復帰できるようになっている。

しかし、別の問題も起きていた。

一度ゾンビになった者への、差別と偏見である。

一度ゾンビになった者はインフェクティドと呼ばれ、学校、入浴施設、プールなどでは差別される。

インフェクティドを教育する仕事に就いた晴伊にとっては悩みの種であった。


ストレスがたまった晴伊は、久しぶりに遠くへバイク乗りに出た。

道路は荒れ放題になっており、取り締まる者も少ないので暴走車も多い。

仙台方面に向かい、市内に入ると、街の復興は急速に進んでいた。

偶然にも、厳場鉄蔵を見かけて晴伊はバイクを停めた。


厳場
「よぉ~お!
バリバリ先生、元気だったかい?」


現場監督をしていた厳場が声をかけてきた。


晴伊
「あまり元気じゃないですね。」


厳場
「俺たちの業界じゃ、仕事が断りきれないほどあってな。
空前の好景気だよ。
Chin-Pei博士の理論は正しかったのかも知れないな。」


晴伊
「日本を徹底的に破壊すれば、日本は良くなるとかいう説ですか。」


厳場
「そう。
この世界のどこかに、神の見えざる手というデカイ手があって、それが動くんだってさ。
俺はそんなデカイ手は見たことないがな。
とにかく、新しい世界は創られた。」


晴伊
「そんなの人肉を食う神でしょ。」


厳場
「なんか機嫌悪いなあ。
つまらん仕事など辞めて、お前も土建業始めればいいのに。」


晴伊は別れを告げて去った。

前にも、公務員は他人を食い物にしていると言われて、グサッときた。

確かに、給料分の仕事をしていたとは言いがたい。

自分の思ったような教育はできず、学習指導要領に従って動いていただけだ。

晴伊は、もっと心を育てるような人間教育をしたかった。

東北人は本来、風土に根付いた豊かな心を持っていた。

ところが、晴伊の世代では、その心は失われつつあった。

東京流の物欲中心主義がはびこり、子供たちは他人に残酷な心を持つようになった。

十分な教育ができないのは、世間への裏切りというよりも、子供たちへの裏切りである。

新しい世界では、そうしてはならないと思っていたのだが…。


その後も、晴伊を幻滅させる事件は続いた。

インフェクティドが上手くしゃべれないのを良いことに、死ぬまで酷使する企業が続々と出現したのだ。

大手ブラック企業の丸暴工業でも、悲惨な事件が起きていた。

「このままじゃ生き地獄になっちゃうよ」

タコ部屋に入れられ、一日20時間以上働かされていたインフェクティドは、そう書き残して死んでいった。



季節は再び夏となっていた。

昼間湧き上がった巨大な雲は、夕方黒い雷雲に変わった。

「今度こそは裏切ったりしない」晴伊はそう誓っていた。

高速道路をとばす晴伊の前には、黒い雲が垂れ込め、遠くから雷の音が聞こえ始めた。


丸暴工業でインフェクティドが蜂起したのは、その一週間後だった。

同時多発的に、日本中のインフェクティドが蜂起した。

そして奇妙なことに、アメリカとイタリアではゾンビが大発生する。

ゾンビの発生は、パキスタン、ギリシャ、ドイツ連邦でも起こり、世界中に波及していった。

その時、世界の各地にラッパを吹く天使が現れたという。



世界の終りが近づくと、ラッパを吹く天使が現れると言われています。


ラッパを吹く天使(ウィキペディアより)

ラッパを吹く天使(ウィキペディアより)
 

『ゾンビ考(十二)』~失われた魂を求めて~

原因菌を解明した北野里大学では、強力な抗真菌薬も開発し、徐々にゾンビの発症は減っていった。

古林村にも物資が届き、松土リカは研究を開始する。

しかし、遠い地方には抗真菌薬は届かず、九州へ逃げた日本政府も消息不明となっていた。

晴伊は新たなアイデアを思いつき、松土リカを訪れている。


晴伊
「腕の再生は上手くいきましたか?」


松土
「いびつになってしまって、上手くいかないわ。
暫くは試行錯誤でしょうね。
本当はこんな研究じゃなくて、東京へ帰って死後脳の研究をしたいんだけど…」


晴伊
「東京は米軍に爆撃されてますよ。
フレンド作戦とか言って、ゾンビ達をやっつけてるようです。」


松土
「そう…。」


晴伊
「もし暇ができたら、脳細胞の再生もやってみてくれませんか?
ほら、ゾンビって抗真菌薬で治っても、脳細胞は食われて欠けたままでしょう。
社会復帰するには、脳細胞も増やさないと。」


松土
「言われてみれば確かにそうだけど、脳細胞を増設しただけでは元に戻らないわよ。」


厳場
「そこはやはり、バリバリ先生の出番だろ。
一応は教育者だもんな。」


晴伊
「なんだ、いたんですか。」


厳場
「ちょっと通りかかっただけ。」


晴伊
「そうだ。
厳場さんも暇ができたら、電気ショックを与える装置を作ってくれませんか。」


厳場
「どうせゾンビを教育しようと言うんだろ。
止めとけ。
映画なんかでは、必ず失敗してるし。」


晴伊
「ゾンビに人工的な“自我”を与えて、自分で自分を制御できるようになってもらいます。
これが成功すれば、むやみにゾンビを殺さなくてすむ。」


強力な抗真菌薬とゾンビの教育によって、人間たちは失地を回復しつつあった。

しかしゾンビ発生の根本的な原因は、人間が自然環境から離れ過ぎたことだと晴伊は考えている。

人間が森の中に住んでいた頃は、自然環境とも仲間とも一体になっていたはずである。

森の環境から切り離された地に文化を築くようになり、仲間達と切り離されて互いに争うようになったこと自体が、キノコのせいではないかと晴伊は疑っていた。

キノコの見せる幻覚によって森から連れ出され、都市文明を築いたことは、進歩と評価されてきた。

しかし、人間はそのために豊かな楽園を失い、体と心の分離、ものと言葉の分離に悩むようになったのだ。


つづく


大雪のため遅れております。
 

『ゾンビ考(十一)』~失われた魂を求めて~


古林村に帰った厳場と晴伊を待っていたのは、大量に押し寄せてきたゾンビだった。

松土リカは獣医の厚田に任せて、厳場と晴伊は銃撃に出た。


厳場
「“原発反対”なんていうプラカードをぶら下げたゾンビがいるぞ。」


晴伊
「誰かがいたずらしたんでしょ。
命がけで、そんないたずらしなきゃいけないものか。」


厳場
「おお、“独裁者”なんていうカードを下げた爺さんもいる。」


晴伊
「あの顔、前にテレビで見たことあります。
きっと東京から歩いてきたんだ。
なんという達者なゾンビだろう。」


厳場
「東京のゾンビは化け物か?!」


既に銃撃を行っていた男達とともに、二人はゾンビを撃ちまくった。
しかし、撃っても撃ってもゾンビの数は減らず、金網の外側は死体の山ができた。
やがてその死体を踏み台にして、ゾンビたちが金網を乗り越えそうになったため、一番外側の金網フェンスは放棄された。


晴伊
「ゾンビに土地を奪われましたね。」


厳場
「そうだな。
これは戦争だ。
でも、一方でゾンビは解放者だ。」


晴伊
「???」


厳場
「ゾンビは政治家だの、銀行員だの、公務員なんて奴らを食ってくれた。
人間を食い物にしていた奴らを、平らげてくれたのさ。」


晴伊
「……。」


厳場
「ゾンビとの戦いに勝ちさえすれば、俺たちは新しい世界を手にすることができる。」


晴伊
「まあ、それは生き残ってから考えましょう。」


戦いは夜中まで続いたが、深夜にはゾンビの来訪も止まり、男達は眠りについた。

例によって、しばらく隔離されることになったが、金網を隔てて晴伊と松土リカは隣同士になった。

次の日、目が覚めた晴伊は話しかけてみた。


晴伊
「大丈夫でしたか?」


松土
「なんとかまだ生きている、という感じね。
麻酔で痛みは無くなったけど。」


晴伊
「再生医療とかは、やったことないんですか?」


松土
「やったことはないけど、ちょうど良い機会だから自分の腕で実験してみるわ。
先ずは万能細胞というのが、作れるかどうかというところ。」


この頃、北海道にある北野里大学では新型感染症(ゾンビ)の原因菌分離に成功していた。

原因菌はきのこの一種ではあったが、人間の脳細胞に擬態(形を似せること)していたため、発見が遅れていたものである。

この菌に感染すると、大脳新皮質から壊死が始まり、食欲などを司る大脳辺縁系が最後まで取り残されるため、動物的欲求だけの化け物となってしまう。(ゾンビⅠ型)

さらにこの菌は、単に擬態するだけではなく脳細胞としての機能も持ち、人間の脳が死んだ後は中枢機能を担っていた。(ゾンビⅡ型)

しかし、これだけでは適切にゾンビ現象を説明することはできず、謎は残された。


つづく
 

『ゾンビ考(十)』~失われた魂を求めて~

登場人物…松土リカ…脳の研究を行うマッドサイエンティスト。


結局、情勢分析も兼ねて、東京へ行ってみることにした。

内部スピーカーの付いた防護服を着て、厳場と晴伊はヘリコプターに乗り込んだ。


晴伊
「厳場さんて、ヘリコプターの免許持ってたんですか。」


厳場
「持ってるよ。
ラジコン操縦士。」


晴伊
「それって模型じゃないですか?」


厳場
「贅沢な事も言ってられないさ。
どこか途中で燃料を補給しなければ。」


ヘリコプターは時間をかけて飛び上がった。

その後、給油も行った。

東京が近づくと緑は減り、コンクリートばかりが見えるようになる。

道路は、ガン細胞が血管を増設するように、東京に向かって増えていく。

それは人や物資を飲み込んでいく、大都市というものの正体を示していた。


厳場
「東京という所は、何故これ程密集して人が住んでいたんだろう?
決して快適ではないはずだ。」


晴伊
「前から言ってるじゃないですか。
人と人の間に働く引力のような力が在るんだって。」


厳場
「道三と信長の話か?
その話はあまり良く分からんな。
もうすぐ目的地に着くぞ。
どこかの社屋でも見つけて降りよう。」


厳場と晴伊は、目的地近くのビルの屋上に着陸した。


厳場
「まだいるぞゾンビ。
化け物並みの生命力だな。」


それは後に、ゾンビⅡ型と呼ばれることになる連中だった。

人間として一度死んだ後、別の生き物となって活動しているのである。



厳場と晴伊は地上に降り、ゾンビを撃ちながら地下へ向かった。

2フロアほど階段を降りると、その後は横に伸びるトンネル状の通路を歩いた。

暗いトンネルは侵入者を警戒してのことだろうか。


厳場
「さすがにここまでくると、ゾンビはいないな。」


晴伊
「油断できません。
狭くて暗い所が好きなやつもいるかも。」


二人は突き当たりまで歩き、工具を使って扉を開いた。

研究室らしき場所が姿を現した。


晴伊
「ここまでの噂は本当らしいけど、果たして脳内映像を映す機械なんてあるのかどうか?」


突然、白衣を着た女性が飛び出してきた。

二人はゾンビかと思い、銃を向ける。


女性
「ゾンビじゃない。
ここの研究員で、松土リカです。」


松土は両手を挙げて、ゾンビではないことを示した。


厳場
「他にも生存者はいるのか?」


松土
「皆逃げたわ。
私はここにいた方が安全だと思って、留まったけど。」


晴伊
「脳内映像を映す機械とかいう物は?」


松土
「製作中だったけど、まだ未完成よ。
被験者の方が先に死んでしまって。」


晴伊
「被験者の方が先に死んだって?
どういう事なんです?」


松土
「Chin-Pei博士というアメリカ人の先生がいて、この人は末期のガンだったのです。
そう言う訳で、死ぬ瞬間に見る映像を私たちに提供してくれる約束でした。」


厳場
「その先生の名前なら聞いたことがある。
なんでも、日本を改革するためには、徹底的な破壊が必要だとか言ってたな。
“毒ガス無くして改革なし”なんて言ってたような気がしたぞ。」


松土
「でも、Chin-Pei博士は自分の死期を悟ると、改心しました。
そして人類共通の利益になろうとして、被験者となったのです。」


厳場
「どうも嘘っぽい話だな。
奴が改心するなど、あり得ない。
それで?
間に合わなくて、奴の死は無駄になったのか?」


松土
「せっかくの機会なので、霊能者の先生に手伝ってもらって、一部その映像を見ました。
無軌道入道という仏教系の人でした。
霊能者の先生が、Chin-Pei博士の見ている映像を読み取り、私の脳に送り込むという方法です。」


晴伊
「その博士、改心などせずに、人生の最期に悪意を放ったのかも知れませんよ。」


厳場
「オカルトだよ、そんなもの。
今時、オカルト本でもそこまで馬鹿馬鹿しくはないぞ。
もう、そんな話はここを出た後にしないか?」


晴伊
「そう言われてみれば、確かにここは危険だ。
たくさんのゾンビがやって来たら、出られなくなってしまう。」


松土リカも防護服のようなものを着て、一行は研究室を出た。

来る時は、さほどとも思わなかったが、トンネルは余りにも長かった。

そして暗かった。

懐中電燈で照らして見えるのは、足下だけである。

退避スペースのような所を通った時、隙間に隠れていたゾンビが、一番後ろの松土リカに襲い掛かった。

ゾンビは直ちに射殺された。

しかし…


松土
「左手の指を咬まれてしまった。」


厳場
「そっちへ行って、うつ伏せに寝るんだ。
晴伊は懐中電燈を持って。
早く!!」


厳場は、持ってきたナタを松土の左腕に振り下ろした。


松土
「うぐっ」


肩間接の下辺りは、一度では切断できず、二度三度と振り下ろしてようやく切れた。


厳場
「さすがは科学者だけある。
悲鳴を上げたりしないな。」


厳場は、持ってきた目玉クリップで血管をふさいだ。


厳場
「明るい所へ行ったら、もっと細かく止血しよう。」


松土
「研究室へ戻って抗生物質を取ってくる。」


晴伊
「抗生物質は効かないんですよ。
先を急ぎましょう。」


一行は地上に出た後、集まってきたゾンビを撃ちながらヘリコプターにたどり着いた。

離陸した後、晴伊はさらに細かく止血した。


晴伊
「村へ帰ったら、動物病院の厚田医師に診てもらって下さい。
わが村には人間の医者はいないんですよ。」


腕の切断が間に合ったのかどうか、厳場も晴伊もそれだけが不安だったが、ヘリコプターは給油をしながら古林村にたどり着いた。

つづく


上越市はひどい雪になってしまいました。
除雪車が駐車場に雪をつっこんでいくので、雪を掘らないと車が出せなくなります。
変な除雪するくらいなら、いっそ除雪なんかやめて。

 

『ゾンビ考(九)』~失われた魂を求めて~

会話は続く。


厳場
「仮に原因がキノコだとしても、かなりの失敗作だな。
なにしろ宿主を殺してしまうんだから。
それに、大脳新皮質を先にやっつけたんじゃ、得意の幻覚を有効に使えない。」


晴伊
「でも、宿主が死ぬ前に、他の人間を咬みつかせて脱出します。」


厳場
「まぁ、原因が何にしろ、俺たちのするべきことは、自分たちの身を守ることだよ。
今回崩壊したのは、隣の尾蔵村だと思わないか?」


晴伊
「そんな気がしますね。」


厳場
「あそこには自衛隊の駐屯地があったはずだ。
うまくすれば、銃が手に入るかもしれないぞ。
猟銃では戦いにくいし、いずれ弾も尽きてしまう。」


晴伊
「そういうのを、泥棒って言うんじゃないですか。」


厳場
「こういうのを緊急避難と言うのさ。
たとえ他人の利益を犠牲にしてでも、自分の命は守らなければならない。
そのうちに行ってみないか?」


結局、三日後に隣村へ出向くことになった。

隣村では、あちこちに遺体が転がっており、一定時間が経つとゾンビも死ぬことが判明した。

自衛隊の駐屯地では、銃を持ったゾンビに遭遇したものの、ゾンビに銃は使いこなせないようだった。


厳場と晴伊は銃と手榴弾、ヘリコプターを手に入れて帰還した。


例によって三日程隔離された後、村のコミュニティーに戻った。

そこでは、また奇妙な噂が流れていた。

ネットから来た噂で、「最初にゾンビが発生した場所が判明した」というものである。

厳場と晴伊は、夢中になって目を輝かせる高校生の山木三太の話に聞き入った。  


山木
「そこは東京の東海岸の方にあって、脳の研究をしている地下研究室なんだよ。
そこにいる科学者は、人の頭の中にあるイメージを機械で読み取って、映像化することに成功している。
ある時、その機械を瀕死の人に繋(つな)いだんだ。
そうしたら、瀕死の人は死んで、黒いトンネルのような場所を急速に上昇するような映像が見えたんだって。
さらに2、3メートル上から遺体を見下ろしている映像が見えて、黒い霊体のようなものに出会った後は、どんどん落下するような映像が見えて、それはずっと続いたんだ。
最後に到着したのは、赤い空の地獄のような世界だった。
そこに住んでいる亡者のような連中は、一斉に上の方に上って行ったんだってさ。」


厳場
「まるで自分が見てきたかのような物言いだな。」


山木
「そんなふうにネットに書き込まれていただけだよ。
その機械のせいで、地獄とこの世界が繋がってしまったんだ。
だから早くその機械を止めないと、亡者でこの世界が溢れかえることに…」


厳場
「見事なオカルトだな。」


晴伊
「でも、本当にそこでゾンビが発生したのなら、何か手がかりがつかめるかも。」


厳場
「ゾンビなんて、どっかの国が作った細菌兵器に決まってる。
そのうちに原因菌が見つかるさ。
そうなればオカルトの出る幕なんて無い。」


晴伊
「それでは、私一人で行ってみましょうかね。
泥棒にまで付き合ったんだから、少しは協力してくれても良いような気もしますがねぇ。」


つづく

遅れてしまった。
ちょっぴりインフルエンザ来たか?

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Author:umadahin
馬の首星雲から来た馬です。
ホラー小説を書いています。
ほとんどがホラですので、気をつけてください。

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